60 桜の親身になる理由など
今日は担任の先生との二者面談で三年生の授業はすべてホームルームに変わるため、自分の番が来るまでの間、私達は自主勉強をするように指示されていた。それは昨日返却されたテストの見直しと解き直しだったり、各教科の先生に出されている課題だったり、受験勉強だったり。とにかく黙って真面目にやるなら何でもいいとのこと。
なので私は一番最後に順番が回ってくるのを待つ間、受験勉強も兼ねて英語を重点的に勉強していた。お母さんが作ってくれたコピー本を参考に、基礎問題から応用問題まで順に解いていく。一度集中してしまえば数時間程度の時間が経過するのは案外早く、私が解いていた問題集が半分くらいまで進んだところでようやく自分の番が回ってきた。
「失礼します」
教室を出て、廊下を少し歩いた先にある会議室に入る。私向けの資料などを用意して待ってくれていた先生は正面に座るように言い、目の前の机に書類を広げた。
「じゃあまずは他の生徒と同じ質問をしよう。俺はお前のことをすべて知っているのだから、できる限り隠し事はなしだ」
「ええ、分かっています」
「最近の学園生活はどうだ? 良い点、悪い点どちらでも好きに話せ」
「はい。どう、と言われるほどのことは何もないですね。……ああでも、テスト週間で勉強をしている時に大勢に話しかけられるのはすごく迷惑でした。私達三年生と一、二年生とでは勉強の重要さが違うのは承知していますけれど、もう少し気を遣うように全校生徒に言っていただけると助かります」
特に私は受からなければならない学校がある。自分から始めたこととはいえ、勉強中にまで話しかけられると集中できないし、そのちょっとしたことの積み重ねで内申が落ちるようなことがあれば大変。うちの担任の橋本先生は生徒指導の先生でもあるから、こうして要望を伝えておけばそれとなく注意喚起してくださることもある。何事も言ってみるものだよ。特に勉強関係ならね。
「言葉の端々に棘を感じるな。まあそう怒るな。気持ちは分かるから注意しておこう」
「ありがとうございます」
「他はないな? じゃあ次、家ではどう過ごしてる?」
「帰宅、勉強、夕食など、勉強、就寝。以上です」
あとはたまにお母さんに英語を教えてもらいながら刺繍をするくらい。休日も似たような感じだと話すと、『受験生の鏡だな』と感心と呆れが混ざった風に言われた。悪く言えば『女子高生とは思えないくらいかわいげのない生活』って感じでしょうね。もちろん藍那や他の友人と遊びに行くこともあるし、お菓子作りとか女子高生らしいことをする日もあるよ? でもそこまで話す必要性は感じないから黙っておく。
「そうか……まあそのおかげもあってか、成績は文句のつけどころがないな。俺に対しては本性丸出しだが、通常時の生活態度は問題ないからその面でも高評価を付けている。あとはそうだな……瑠衣の苦手な英語くらいか。英語は書くよりも話すことができるようになれ。生きていく上で重視されるのはこちらだ」
「はい」
橋本先生と話している時、いつも思うことがある。この先生、私の素を知っていても通常時の『瑠衣咲良』への対応が完璧なんだよね。何も知らないただの担任、という演技が上手い。『瑠衣咲良』の方を見ても表情一つ変えないからすごく助かる。何を思って私の相手をしているんだろうね。
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