6 桜と蓮と
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「────はじめまして。三年四組に在籍している瑠衣咲良です」
「同じく、結城蓮だ」
よろしくお願いしますね、と言って優しく微笑む咲良に他学年の生徒は男女問わず見惚れている。十人前後のグループでほとんどが同じ顔してんのやべえな。例外は知り合いだと言っていた二年の柳明日香くらいか。どんだけ輝かしく見えてんだよ。俺への態度は少し悪いくらいだぞ?
彼女は咲良と一緒にいるのを何度か見かけたことがある。大人しいのもあってクラスでの立ち位置で言うなら咲良とは真逆だろうが、親しい人には適度に甘えるので一部の人間にはかなりかわいがられるタイプだ。俺は話したことがないからあまり詳しいことは知らねえが。
「二年の柳明日香です」
「い、一年の鈴木日向です! よろしくお願いします!」
静かに頭を下げる柳に対し、緊張気味ではあるが元気に名乗る鈴木。こいつ、咲良に惚れたな。二年以上一緒に過ごしていれば誰かが咲良に恋をする瞬間を目撃することは山ほどある。容姿と性格とカリスマ性……それから本人も言っていた人望ってやつのおかげだろ。
たしかに理想の女子だろうが、こいつは穏やかな笑顔の裏に色々隠してるぞ? 意外と自分のことを話さねえ奴だからな。そういうミステリアスな部分も良いのか……? モテ要素が多すぎてどこに惹かれてるのか全然分かんねえ。
「……あれ? あすちゃん、同じ班の二年生一人足りなくない?」
「すみません、言い忘れていました。体調不良で欠席です」
「新学期早々体調不調とは大変だな」
「うん。それじゃあこれで全員揃ったし、学園見学を始めましょうか」
パンフレットを机の上に広げ、どの順番で回るか相談する咲良の周りを下級生が囲っている。その輪の中に入っていないのは俺と鈴木だけだ。俺ら、初対面のはずじゃねえの? すげえ何か言いたげな視線を向けられてんな。
「結城先輩、ちょっとこっち来てください」
「はいはい」
わざわざ教室の隅まで移動させられるってことはあいつらには聞かれたくない話なのか。……あー、あれか。絶対いつものだろ。すでに百回くらい聞かれたことがある質問だ。
「……結城先輩って瑠衣先輩と付き合っ、」
「付き合ってない。好きでもねえ」
「あんなに瑠衣先輩大好きって気持ちが駄々洩れなのにですか?」
「嘘じゃねえよ。ただ一年の頃から一緒にいるライバルってだけだ」
俺も咲良も、そこに恋愛感情はない。どいつもこいつも、見て分からねえのか? どっからどう見てもお互いに恋愛感情なんて抱いていないはずだが。
それに咲良は努力であらゆるものを手に入れている。対して俺は元の才能だ。自分で言うのも何だが天才肌というやつだろうな。それもあって俺は敵視されている。だから真逆のタイプの俺らが付き合うなんてことは恐らくあり得ない。
「ただまあ、今のところ恋愛感情には至っていない程度の感情なら否定しないが」
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