58 桜の未来
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忙しくも楽しかった体育祭が終わり、これまた学生らしい年間行事が姿を見せた。それはみんな大好き中間テスト。現在絶賛テスト期間中であり、当日は一週間後に迫っている。ちなみに『みんな大好き』と言ったけど、私は面倒だから嫌いだよ。
まあそんなわけで、真面目な生徒はもっと前から勉強をしていただろうし、私も絶対に受からなければならない大学があるから真面目に勉強していた。苦手な英語は特別教師付きの贅沢コースでね。そして今私の目の前で課題をやっているのが、不真面目な生徒。
「咲良ぁ……これ、難しすぎない?」
「それは二年の時の復習なんだけど、覚えてないの?」
「こんなのやった記憶ない……」
両手で顔を覆い、項垂れる藍那の頭を教科書で軽く叩いたのは蓮くん。これ以上ないくらい呆れた顔をしている。現在の時刻は午後三時頃。うちの学園はテスト前一週間だけ午前で授業が終わる。だからこうして私、藍那、海斗くんに蓮くんの四人で私の家に集まり、一緒にテスト勉強するのが定番となっている。
私の家で集まるのはシンプルに親がいなくて呼びやすいから。学園からも近いから学校終わりにそのまま来れるしね。
「これ、前に俺が教えたとこだろ。お前ぜってえ覚える気ねえな?」
「そんなことないよ? でも蓮、頭がいい人の思考回路だから説明が難しいの!」
「それは褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだろうね……藍那、俺が教えてあげようか?」
「いいの!? じゃあお願いします!」
おお……好きな人に教えてもらえると分かった途端目が輝いたね。そんなにやる気が出るものなのかな? 私は好きな人ができたことがないから分からない。藍那を見ていると恋の力がすごいのは良く分かるんだけどね。
「ねえねえ、それなら蓮くんは私に英語を教えてよ。蓮くん私より英語できるでしょう?」
「まあ、ほとんどの奴はお前よりできるな。見返りは?」
「ない」
「もうちょっと悩めよそこは。まあ仕方ねえし教えてやるが」
感謝しろよ? と言いながらわざわざ自分の課題を片付け、私の隣まで来てくれる蓮くん。恩着せがましいのか、普通に優しいのか、どっちかにしてほしいね。
でも私から蓮くんに渡せるものって本当に何もないと思う。だって蓮くん、私程度が手に入れられるものくらい簡単に買える財力があるでしょう? すごくプレゼントに悩む相手だよね。
「そうだ、私が刺繍したハンカチとか使う? たしか蓮くんが好きそうなデザインのもあったと思うよ」
「マジ? じゃあもらう。だがとりあえず勉強するぞ」
私の特技が刺繍であると知ってる人は多いけれど、それを売り物にしてると知る人は学園内だとこの三人くらいしかいない。私は基本的にオーダーメイドしか受け付けてないから希少価値が高いんだよ。その収入だけで生活できるくらいには売れている。みんな私の作品を好きだと言ってくれるけれど、特に蓮くんは好きって言ってくれるんだよね。たまに買わせろと言ってくるくらいには。
私、実は刺繍作家の道に進みたいと思っているんだよ。でもそうはいかない事情がある。私は一人娘だからお父さんの仕事を継がなければならない。そうなると時間の都合上厳しいから……最近は進路についてどうするか、すごく悩んでいる。
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