5 桜の帳
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「───本日、午前の授業は事前に伝えてあったように学園見学です。今から校内地図等が載っているパンフレットを配るのでそれを確認してください。各班のメンバーについても書いてあります」
今日は毎年恒例の学園見学の日。毎年始業式の次の日は二、三年生が引率して新入生に学園内の様々な場所を案内することになっている。午後からは通常通りの授業だけど、午前中だけでも授業がないと楽だよね。他学年の生徒と交流できる貴重な機会でもある。
「……私達いつも同じグループな気がするんだけど」
「気がするじゃなくね? こういうグループごとに分かれる活動の時に別々だったことねえだろ」
「そうだよね」
普通にすごいと思う。この学園は班別行動の時はランダムで決まることが多いから。運命なんじゃないかなって疑うレベルで彼と離れられない。二年生は……あ、仲が良い子だ。同じマンションに住んでるんだよね。大人しくてかわいい後輩。
「学園見学が終わったら自由時間になります。各自、この機会に下級生としっかり交流しておきましょう。そして今日のロングホームルームから体育祭の準備が始まります。体育祭では一、二年生ともチームを組むことになるのでそのつもりで関係を深めておいてください」
そこまで話すと先生は『以上です』と告げて教室を出て行った。ここからは私達の行動にすべて委ねられている。ひとまず私と蓮くんは集合場所とされている教室へ向かうことにした。
「咲良、同じ班で知ってる後輩いんの?」
「一人だけね。近所の子」
「あー、たまに作り置きの飯もらってるって言ってた家か? お前ん家親いねえもんな」
「ものすごく語弊があるね。親はいるし」
「知ってるわ。あれだろ、咲良だけこの学園に通うために引っ越してきたって前に聞いた」
そうだね。私は東京出身だけど学園が神奈川にあるから毎日通うとなると大変。お母さんはともかく、お父さんは転勤できる仕事内容じゃないから私だけ引っ越してきた。でも第一志望の大学に受かれば東京に戻ることになる。そうなったら藍那や海斗くんとは離れるだろうけど、もしかしたら蓮くんはまた同じ学校かもしれない。
「転勤できない仕事内容って、ほんとお前の父親何の仕事してんの?」
「いつか嫌でも分かるよ」
もったいぶるなよ、と不満そうに睨んでくる蓮くんに苦笑していると、私達の班の集合場所である会議室に到着した。
恐らくはじめましての子がほとんど。大丈夫、私は『瑠衣咲良』。私らしく接していれば何の問題もないよ。
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