46 恋の味を知らない桜は
約一時間のお昼休みが終わり、桜華学園の体育祭も午後の部に突入した。午後の部最初の競技は二年生の学年別競技『台風の目』で、その後蓮くんが出場する徒競走や日向くんが出場する大玉転がしと続き、気付けばプログラムも残り四項目まで進んでいた。
午後になったので各団の得点は隠されたけれど、計算が合っていれば引き続き青団と緑団が優勝候補として一位二位を争っているみたい。残りの三つの団は上位に食い込んでくることもあれば、一気に逆転されることもあるって感じ。
そして今から始まるのは三年生の学年別競技『借り物競争』。この次に行われる推薦型競技のリレーと並んで最も人気のある競技。
「────これから、この競技のルールを説明します。ルールは大きく分けて二つ。一つ目に、選手は男女分かれて事前に決められている順で競技に参加していただきます。対戦相手は各団の生徒一名ずつです。二つ目、選手はスタートの合図と共にテーブルが設置されている場所まで走り、並べられているお題を一枚選んで実行してください。借り物として指定されているものはすべてこのグラウンド内にあります。全員が走り終えた後、順位別で得点を集計し全体での順位を発表します。それではプログラム十番、三年生学年別競技『借り物競争』開幕です!」
借り物競争は定番の競技だから、一応説明されてはいるものの極一般的なルールでしかない。ただ、お題は全学年全クラスの代表者十名がルールの範囲内で自由に決めているから、何が入っているかが全く分からない。
ルール説明が終わり、準備が整ったのを確認した先生がスタートの合図を知らせるピストルを鳴らした。乾いた破裂音と共に第一走者が走り出し、グラウンドに設置されているスピーカーからは体育祭らしいクラシック音楽が流れ始める。
「最初にお題を手にしたのは白団! 白団のお題は『メガネ』です!」
実況も兼ねたお題確認担当の生徒がマイクを片手にグラウンド内に声を響かせる。お題確認は不正防止と団員が協力できるようにするためのもの。ただし、選手である三年生は協力禁止となっている。
「青団のお題は学園長先生? いきなりハードなのを引いたね……」
お題発表の声を聞いた藍那は苦笑している。うちの学園の園長先生は別に厳しい先生とかではないし、むしろ慕われているくらいだけど、それが誰であろうと指定されているのが『物』じゃなくて『人』だとどうしてもゴールするまでに時間がかかっちゃうことが多いんだよね。藍那が言っているのはその意味での『ハード』だと思う。
ちなみに走るのは女子と男子交互になっている。足が速い人ほど走順が遅いから、私や藍那はかなり後ろの方になっている。後ろには蓮くんや海斗くんもいるみたいだね。
「ねえねえ咲良、こういうのって絶対『好きな人』っていうお題があるものだよね? もしそれを引いた生徒の好きな人が三年生だったらどうなるんだろう?」
「それなら友人や親を選ぶんじゃない? 恋愛感情に限定されてることはないだろうし、そのあたりが無難だと思うよ」
「やっぱりそっか~。でもそれだと面白くないよね。せっかくの体育祭なんだから甘酸っぱいやつが見たい!」
そんなこと私に言われてもなぁ……この年齢だと好きな人は同級生、ってことが多いイメージなんだけど、そうなると今回のルールじゃ私が言ったようにするしかなくない? 私だったらお父さんかお母さんか、あすちゃんあたりを連れて行くよ? 藍那や甘い恋をしている女子達と違って、私に恋愛的な意味での好きな人はいないもの……
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