43 桜の通り道
「あれは一体……」
「…………」
引き続き蓮くんと話をしながらグラウンド内の見回りをしていると、十人ほど集まっている場所を見つけた。そこはグラウンドの端の方だからかあまり大きな騒ぎにはなっていない。先生や大人はおらず、どうすればいいか分からないのか戸惑っている様子。
蓮くんが歩いていた場所からは集団の中心にいる人物が見えたらしく、険しい顔の蓮くんに手を引かれて場所を交代すると、緑のハチマキを巻いた女子が地面に横たわっている姿が視界に入った。
「蓮くん」
「走るぞ」
「分かった」
百メートルほど先にいた彼女達の元へ一瞬で辿り着き、蓮くんは困惑している生徒に事情を聞きもせず脈を測りだしたので、代わりに私が話を聞くことにする。
「何がありました?」
「え、えっと……ついさっきまで一緒に緑団の応援をしていたんだけど、急にその声が途絶えたと思ったらフラフラしてて……そのまま倒れて怪我をする前に、慌てて横たわらせたって感じだよ」
「直前までの体調は? 水分補給をしているのは見ましたか?」
「ごめんなさい、そこまでは見てなくて……でも汗が止まらないと言ってたかな?」
身に覚えがありすぎる。発汗は止まらない場合と、全くない場合の二パターンあるけど今回は前者。倒れそうになっていたのは恐らく頭痛や吐き気からで、彼女達全員手ぶらであることから考えるときっと水分補給もしていない。軽く痙攣していて体に力も入っていない、脱力状態。
「蓮くん、これ熱中症」
「だな。意識はあるから救急車はいらないだろうが……とりあえず影に連れて行く。今日はうちの両親も来てるから一応呼んでくるわ。保健の先生も席外せねえだろうし」
熱中症で動けなくなっている彼女を涼しいところまで運んだ蓮くんは本部の方にチラッと視線を向けた。そして保健の先生も何やら忙しそうにしているのを確認し、携帯を片手に立ち上がる。『少しの間任せた』と言ってどこかへ歩き出した蓮くんを見送り、不安そうにしている周りのみんなに微笑みかけておく。
「大丈夫ですよ。知っての通り、彼のご両親はお医者様ですから診てくださるでしょう。それほど重症でもありません。ちょっと失礼しますね……」
受け答えする余裕はないだろうけど一応断りを入れ、涼しくしておけば大丈夫、と言いながら衣服を緩めればようやく安心したように頷いてくれた。
見回りを任された以上、自分にできることはしっかりやりきるよ。蓮くんも手伝ってくれているしね。
集まっていた女子に冷えたスポーツドリンクを三本くらい持ってくるようお願いし、その間に私が持っていたハンカチで汗を拭く。走って戻ってきた子から受け取ったスポーツドリンクのうち二本は未開封のまま両脇に挟む。氷水がないからとりあえずの処置だよ。
「瑠衣さん……手際いいですね?」
「そうですか? ありがとうございます。私も熱中症になったことがあるので、自分がされたのと同じような処置をしているだけですが」
もちろん、その時の記憶なんてうろ覚えだからそんな曖昧な知識だけで行動するはずがない。医療に関する応急処置や基礎的な知識は元々身に着けていた。まあ面倒なことになりそうだし、余計なことは言わないけれど。
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