4 桜藍恋
◇
……視線を感じる。いや、自分で言うのも何だけどこの学園の生徒にはそれなりに慕われているから視線を感じるのは日常茶飯事なんだよね。でも何だろう、いつもの視線とは違う種類な気がするというか……
「どうしたの?」
「ちょっと視線を感じてね」
「視線くらい毎日感じてんじゃねえの?」
「それはそうなんだけど……まあいいや。帰ろう」
今日は下校時刻が普段よりも早い。せっかく時間があるんだから、さっさと帰って勉強を進めたいと思ってる。今年も五月末頃に今年度の定期試験がある。だけどその前に桜華学園体育祭があって、早速明日から体育祭の準備が始まるからゆっくり勉強する時間なんてない。できる時にやっておかないとね。
「蓮、今日は歩いて帰るのか?」
「ああ。迎えはいらねえって言っといた」
今日は予定がないからな、と荷物をまとめながら続ける。蓮くんは名家の御曹司なだけあって普段は忙しいらしく、家で働いている方が送迎している日もある。家が少し遠いのも理由って言ってたかな。
通学路は私と藍那、海斗くんと蓮くんで分かれている。だから登校は別々のことが多いけど、下校は藍那と一緒の日がほとんど。今日も校門の前で手を振り、二人と反対方向に向かって歩き出した。
「……それで、藍那。今年も海斗くんと同じクラスになれた感想は?」
「う、嬉しすぎて泣きそうです……」
「それは良かった! 今年こそ告白できればもっと良いんだけど」
「それはちょっと、ね? フラれる可能性の方が高いと思うし、そうなったら友達でもいられなくなるかもしれないじゃん。それだけは避けたいからやっぱり勇気が出ないよね~」
「うーん……」
まあそうだよね。私としても四人で過ごす時に妙な距離感を感じるような関係は嫌だなと思う。気まずいだろうしね。
藍那は高一の時から海斗くんのことが好きらしい。このことを打ち明けられたのは藍那が恋心を自覚してすぐだったと思う。私達四人はいつから仲が良かったのか覚えていないけれど、入学してからそんなに時間は経っていなかったはず。だとすると、藍那は今年で海斗くんを好きになって三年目に突入することになる。
私は恋愛をしたことがないから分からないけど、私達の年齢だと恋愛はあまり長続きしないイメージがある。そう考えると藍那は一途な方なのかもしれない。
「あまり勝手なことは言えないけど、そろそろ本格的にヤバいんじゃない? 私達今年で卒業だよ?」
「うっ……お、おっしゃる通りで……」
「私にできることなら手伝いくらいするよ。というか、ずっと思っていたんだけど、そうやってうじうじ悩んでるの藍那らしくなくない?」
「たしかに……じゃあ咲良、協力して! 名付けて『恋を叶えよう、ドキドキ大作戦』!」
「おー!」
……じゃなくて、今まで約二年間悩み続けてきた割には判断が早すぎない? そう思ってそのまま藍那に言うと、『咲良の言う通りでいつまでも悩んでいるのは私らしくないし、私もこのままでは何も変われないと分かっていたから』、とのこと。
具体的にはまた後日決めるけど、とりあえず作戦の内容は『海斗に意識してもらえるよう、積極的にアプローチする』らしい。正直、海斗くんの気持ちは分からない。でも私は藍那を応援したいと思っているよ。少しでも藍那が頑張れるよう、私は隣で支えることに専念しようかな。
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