37 美しい桜には棘がある
あすちゃんと共に校門をくぐると、エントランスに向かう途中に見えたグラウンドではすでにテントなどの設営が終わっていた。今は白線を引いたり、小道具の準備をしているみたいだね。私の担当は団旗や椅子、マイクの準備。これは複数人で行うから早く来た人はもう始めてるね。私も早く手伝わないと。
「じゃ、あすちゃんまた後でね!」
「はい。怪我をしないよう気を付けてくださいね」
「ありがと!」
あすちゃんに手を振り、教室へ繋がる廊下を歩いているといつも以上に感じる視線が多い。……というより、すれ違う人全員が二度見してくるんだけど……これはさすがに気のせいではないと思う。何かおかしいところでもある? 急に不安になってきた。ただ視線を向けられるだけなら慣れていても、誰かとすれ違う度に二度見されると怖いよ……?
「……おはよ、藍那」
「おはよう。なんか元気ないね?」
「教室に来るまでの間、通りかかる人全員に二度見されまして。今日の私、何か変?」
「それ、絶対髪型が理由だろ。俺も登校してから後悔したわ。もう直せねえのに」
「髪型? ただのポニーテールだけど?」
もっと分かりやすい説明をお願いしたい。いつでも雑な説明で通じると思ったら大間違いだからね。教えてくれるだけありがたいけど、中途半端だと余計に気になる。
「その『ただのポニーテール』をしてるのが瑠衣だから騒ぎになってるんだよ。瑠衣、今絶対廊下出ない方がいい。すでに野次馬だらけ」
「ええ……これ、似合ってる?」
「すごくかわいいよ! いいな、私も髪の毛伸ばそうかな!」
「お前は咲良みたいに手入れできねえだろ、伊島」
「なっ、失礼な男ー!」
馬鹿にしたように鼻で笑った蓮くんに突っかかる藍那。いつも通りの光景で逆に落ち着いたよ。
でもそっか、私いつもハーフアップだからこの髪型が新鮮なんだろうな。似合ってるって言ってもらえたのは嬉しかった。今日はハチマキを巻くからいつものリボンはなし。夏らしく白いシュシュで髪をまとめてきた。これは後で腕に付けて、髪の毛はハチマキで結ぶ予定。やっぱり、一日中動き回るならまとめた方が楽なんだよね。
ちなみに実家帰省中の新幹線でおじいさんからもらったミサンガは、藍那と仲直りできたからか切れてしまったので部屋に飾ってある。
「それはそうと瑠衣、今日は気を付けて。その顔でうなじ出すのは危険だよ」
「うん……?」
「絶対分かってない。まあ誰かしら絶対傍にいるだろうし、校内に入るには許可証がいるから大丈夫か……」
いや、分かるよ。人気がないところに連れ込まれないように気を付けろ、って言いたいんでしょ? 一応自分の容姿がどの程度か理解してるつもりだから、その辺の危機感は言われなくてもある。外に出る時は。
でも学園内でそんなことする人は絶対に許可証なんてもらえないから心配いらない。ちゃんとした学園だからセキュリティ面しっかりしてるし。……と言いつつ、約一名職権乱用しようとしていた人を思い出してしまった。ストッパー役がいるし、正規の許可証を渡したから今回は大丈夫だけど。
そういえば、ここまでの話と全然関係ないけど蓮くんもいつもと髪型違うね。後悔したって言ってたし、私と同じように二度見されながら教室に上がってきたんだろうな。蓮くんの場合、悲鳴も上げられたかもしれない。ご愁傷様です。
蓮くんもきっと、今日はハチマキを巻くからセンター分けなんだろうね。直せないと言ってたのも固めてるからだと思う。喋ったら台無しだけど、顔だけは良いから整った目鼻立ちがいつも以上に際立ってる。競技中、この顔の強さに怯えて練習の成果を出せない人もいるかもしれない。攻撃力高めなのは助かるね。
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