34 桜の幹は美しく
あの後、お昼休みも終わりに近付いていたので一緒に教室に帰った。だけどその道中、藍那のもやもやした気持ちが大きくなり始めたきっかけを聞いたんだよね。それは体育祭の選択種目を私が譲った時だったらしい。本当、どこで何を見られているか分からないものだね。藍那は歳の離れた兄姉が多い上に末っ子だから、こんな感じでも身近な人間のことはよく観察しているのかもしれない。
「────というわけで、無事仲直りしました!」
「本当ですか!? 良かったです……!」
「俺も安心したよ。また並んで歩く二人を見れて嬉しいな」
「……おい、突っ込み役不在か? 『というわけで』って、俺ら何の説明もされてねえぞ?」
あら、ちゃんと健在じゃない。私達の中では今も昔も蓮くんが突っ込み役でしょう。どんどん一緒に過ごす時間が増えてきた真紀ちゃんも、意外に突っ込まれたいタイプみたいだし、やっぱり蓮くんが一人で頑張らないと。
「そんなの言わなくても大方予想は付いているでしょ。突っ込み役も蓮だけで十分だと思う!」
五限目は移動教室なので、五人で移動しながら今まで通りテンポよく会話を進める。やっぱり、この感じが一番だな……私達は一人でも強いけれど、全員揃った時が最強で会話も楽しい。この一週間で『日常』がどれだけ幸せなものか身を持って知った。
「瑠衣、ハンカチいる?」
「私、別に泣いてないからね?」
でも泣きそうにはなった。だからさり気なく顔を逸らしたんだけど、海斗くんにはしっかり見られていたらしい。冗談なのか本気なのか、よく分からないテンションで言ってくる海斗くんの言葉を返事をしつつ、目の前で喧嘩をしながら歩く藍那と蓮くんの背中を見つめる。
この一週間の私達は藍那とその他四人、という別れ方だったんだよね。距離を取ったのが藍那なんだから当然かもしれないけど、そうなると必然的に私以外の三人との絡みもあまり見かけなかった。
「海斗くん」
「ん?」
「私のせいで藍那と関わる機会を減らしちゃってごめんね」
「別にいいよ、気にしないで。その分今からたくさん話せば良いだけだからさ。それより瑠衣、俺は相談とか乗ったよ? 謝罪よりも聞きたい言葉があるんだけどなぁ……」
私の顔を笑顔で覗き込みながら言う海斗くん。都合良く今の言葉だけ聞こえたのか、絶賛藍那と喧嘩中だったはずの蓮くんまで振り向いて頷いてくる。
でもたしかに、海斗くんにも蓮くんにも慰めてもらったんだよね。助かったよ。この髪飾りのおじいさんや、あえて何も言わずにいてくれた真紀ちゃんにも感謝してる。
「……みんな、ありがとう」
今のは涙声になってしまった。恥ずかしいけれど、仕方ない。喧嘩したわけでもなく、ただ誰かとすれ違ったまま一週間経過しただけなのにこんなに辛かったのは初めて。私にとって藍那はやり直したからこそ、絶対に失いたくない親友で。正直なところ、本当に心が弱ってしまっていた。そんな時に支えてくれる友人の存在に、どれだけ救われたか言葉では言い表せないけれど……とにかく、どれだけ言っても足りないくらい感謝している。それは藍那も同じだったようで、同じように感謝の言葉を呟いていた。
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