32 桜が散る前に
◇
「────それで? わざわざ呼び出して、何を話すの?」
「この一週間のことだよ。藍那も分かってるでしょう」
「まあね」
表向きはいつも通りに話しているけれど……あ、あっという間だった……! こんなに一瞬で時間が過ぎるとは思わなかったよ。
学園校舎の屋上。フェンスに背中を預けるようにして並んで座った私達は、早速昼食を取りながら話を始めた。お昼休みは一時間ほどしかない。さっさと話し始めなければまたタイミングを逃してしまうとお互いに分かっているから、こんなにスムーズに話が進んでいるんだと思う。
「咲良、先に謝らせて。いきなり距離を取ったりしてごめんなさい。困らせちゃったよね……」
「困った、というよりは不安だったと言った方が正しいかな……確認させてほしいんだけど、今回私と距離を取ったのは先週の月曜、体育祭の練習後に私がクラスの女子に声を掛けられているのを聞いていたから? 藍那がいた場所だと、私が手のひらを握りしめてしまっていたの、見えていたでしょう」
「そうだね」
私の予想通りだった。まあタイミングから考えても、それ以外の理由はなかっただろうし当然かな。
「でも勘違いしないで。私が咲良から距離を取ったのは、少し前から悩んでいたことがあれをきっかけに限界を迎えて、ゆっくり考えたかったから。咲良のことが嫌いになったとか、そういうのは一切ないよ」
「そ……それなら、良かった」
「あの時の咲良、『期待してる。頑張れ』っていう言葉に反応した気がしたの。今朝、咲良の誘いに乗ったのは気持ちの整理がついたのと考えがまとまったからだよ。……もしかして咲良、周囲の期待に苦痛を感じる?」
最後の言葉を聞き、思わずビクッと肩が跳ねてしまった。前半の話は気付かれているだろうと思っていたことだからあまり驚かなかった。気持ちに整理がついたのと考えがまとまったのも良かったと思う。だけど、そこまで見抜かれている可能性までは考えていなかった。
しっかり私の反応を見ていたらしい藍那が隣で苦笑したらしく、少し空気が揺れた。たしかに、こんなに分かりやすい反応をすればそりゃあ苦笑されるよね。
「私ね……前から咲良が何かを隠しているんじゃないかなって、ずっと思ってたよ。咲良はあまり自分のことを話してくれないけれど」
「……周囲の期待すべてに苦痛を感じるわけではないよ。時に誰かの期待はやる気に繋がるものだから。ただ、最近はそれが多くてね。直接言われるだけじゃなくて、『瑠衣さんがいれば大丈夫でしょ』っていう人任せにするような声を何度も聞いていたから辛くなっただけ」
藍那の『私が何かを隠しているのではないか』という予想は当たってる。だから私ももっと早く自分の秘密を話しておけば、ここまで藍那を悩ませることもなかったはず。そう思って私からも謝罪すると、『お互い様だから気にしないで』と首を振られた。
「藍那。私が隠してること、もっと早く話しておけば良かったとは言ったけれど、まだ心の準備ができていないから今は話せそうにないかな。でもそれは私の過去に関することだとは言っておく。これ以上はごめんね」
「いいよ。いつか話してくれるんだよね?」
「うん。卒業までには必ず」
「分かった。その時まで待ってるよ」
優しく微笑んでそう言ってくれる藍那に感謝しないとね。
私は周りのみんなに隠していることがあり、それは私の過去に関すること。藍那が知っているのはここまで。その予想が当たっていることだけは今伝えておいたから、言葉通り私から話す時までは待ってくれると思う。今はその優しさに甘えさせてほしい。
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