3 桜の道標
この学園は名前順の席になっている。席替えがないため、自分の前後左右の席の人とは関わりが多くなる。私の名字は『瑠衣』なので今まで通り後ろの方の席だった。逆に藍那と海斗くんは前の方の席で、今年も隣の席になったらしい。
ここで悲しいお知らせが一つ。私のライバルである蓮くんの名字は『結城』。つまり五十音順に並べると私と同じで最後の方になる。
「さすがにもう嫌なんだけど……」
「奇遇だな。俺もだ」
でしょうね。私達の名字は『瑠衣』と『結城』だからどうしても席が近くなってしまう。残念ながら私達は三年間隣の席で過ごすことになるらしい。
海斗くんほどではないけれど、蓮くんもすごく人気が高い。だから普通は喜ぶべきなのだと思う。でも私にとってはずっと敵認定してるライバルだから複雑で仕方ない。
「授業中邪魔しよ」
「そんなことしたら怒るからね」
「おー、怖いこわい。瑠衣咲良は恐ろしい女だって学園中に言いふらしてやるか。新入生は信じるかもな」
ふっ、と不敵に笑いながらそんなことを言われる。彼はいつもこんな感じだけど、いつも口だけで私の反応を楽しんでいるだけなので恐らくそんなことはしない。別にされても良いけどね。だって私の方が蓮くんより信頼されているから。
「おい、今絶対失礼なこと考えただろ」
「人望の差ってやつだよ」
「ほらな」
「はいそこ、静かにしましょう。そんなに瑠衣に絡んでると嫌われるぞ、結城」
「もう嫌われてますよ」
「それは残念だな。じゃあ俺の話を聞け」
私は蓮くんのことを敵認定しているしライバルだとも思っているけど、嫌っているわけではない。蓮くんもきっとそれを分かっていて言ってる。
今年、私は三年四組になった。このクラスの担任は橋本裕大先生。たしか今年でこの学園に来て四年だと言っていた気がする。先生も私達とは三年目の付き合いになる。だから蓮くんの扱いはよく理解しているみたい。
ホームルーム中にこそこそと私語をしていた私達を最低限の言葉で注意し、空気が悪くならないように一言付け加えた。『瑠衣に嫌われるぞ』という言葉はみんなも笑っていた。こういう堅苦しくないところが橋本先生が好かれる理由なんだろうな。……今回は私から始めた会話だったから蓮くんはあまり悪くないんだけど。だからごめんね? 少し不満そうに睨んでくる蓮くん。
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