29 桜も藍も、ままならず
長いような短いような、不思議な感覚だった休日が終わり、私は再び神奈川の家に帰ってきた。帰る直前に一瞬だけお父さん達と顔を合わせ、仕事がすべて終わったことなどの報告もしてきた。次に会うのは今週の日曜日、体育祭当日になるかな。
今日はちゃんと藍那と話をしよう。仲直りは少しでも早い方がいい。まだ大丈夫、取り返しはつくはず。
そんな決意をして、私は教室のドアを開けた。ただ教室に入るだけ、という行為でこんなに緊張したことが今まであったかな? いや、きっとなかっただろうね。入学式の日も緊張していたけど、間違いなく今ほどではなかった。
「藍那、おはよう」
「……おはよう」
「その、藍那……」
「なに?」
「…………ううん、何でもない」
何でもない、じゃないよ瑠衣咲良……! 言いたいことがあったのでしょう!? 少し困惑しているような顔だったけど、今日はこれまでと違って目を合わせて挨拶してくれた。だから今が絶好のチャンスだったはずなのに……!
「おはよ……海斗くん、蓮くん」
「うん。瑠衣、元気ないね?」
「絶対今のやり取りが原因だろ。でもたしかに、お前がこんな感じなの珍しいな。今までで一番落ち込んでねえ?」
「もうやだ! 助けて……!?」
静かに藍那の元を離れ、蓮くんの席で話していた二人に泣き言を言うと、海斗くんだけでなくまさかの蓮くんまで苦笑しながら慰めてくれた。藍那は他の友人と楽しそうに話しているため、こちらの様子には気付いていない。だけど今はその方が助かる。
「そういえば瑠衣、その髪飾りは? 初めて見たけど似合ってるね」
「ありがとう。これは土曜日、実家に帰省する途中の新幹線でもらったんだよ。隣の席だったおじいさんに。藍那と仲直りできるように、っていうおまじないのミサンガでね」
「へぇ……元々付けてたリボンとぴったりな組み合わせだな」
「でしょう? それでお礼も兼ねておじいさんの目的地だった病院まで案内したんだけど、その間も色々話せて楽しかった」
そう話すと、首を傾げて何かを考え込んだ蓮くんがおもむろに口を開いた。『その病院って、もしかして瑠衣の脳神経外科か?』と。これは私の家の、という意味ではないだろうね。
「うん。結城家とも関わりがあるんだっけ?」
「まあな。というか、大病院で瑠衣脳神経外科と関わりがないところはほぼゼロだぞ」
「へぇ……」
「え、あの待って? 瑠衣脳神経外科って、瑠衣の実家だったりする?」
「違うよ?」
「まあこの名字珍しいもんな。だが他にいないわけでもない」
そうそう。たまに聞かれるけれど、私は『瑠衣脳神経外科』と関わりなんてないよ。『瑠衣脳神経外科』って、国内トップクラスの脳神経外科だからね。残念だけど、私はそんなすごい存在ではない。
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