23 桜の金庫の藍鍵
なびくハチマキ、ひらめく扇。応援団の人達の衣装は団長以外全員同じ学ランだけど、身に着けている小物は団によって色が違う。青団の応援団はハチマキと扇がすべて同じ空色。それもあってか、今年の青団の団旗は爽やかな雰囲気のものだった。
応援団の中には演技をしている間、団旗を持ってグラウンドを走り回る担当の人がいる。蓮くんが応援団長として指揮しているだけあって、さすがだなと思う場面が多い。すごく息が合ってるね。たった一分の演技でこれほどの覇気を見せられるのか、と思うほどに彼らの演舞は素晴らしかった。
当日はさらに仕上げて来るんだろうな。これを見れば青団のみんなもやる気に満ち溢れそう。
「蓮、すごかったよ」
「そりゃ良かった。お前は?」
「私?」
「そ。お前だろ、俺のかっけえとこ見るの楽しみにしてるって言ったのは」
「まあ……言ったね。本気で受け取るとは思ってなかったけど」
この言葉を言わされるのはちょっと悔しいけど、『ちゃんとかっこよかったよ』と続けると、満足そうに頷かれた。これ、本番も聞かれるのかな? 練習で聞かれたくらいだし、絶対聞かれるよね……
「瑠衣、『とっても不本意です』って感じの顔してるね。そんなに蓮を褒めるのは嫌?」
「嫌ではないんだけど、ちょっと悔しくなっちゃって。一応ライバルだと思ってるから」
「ライバルだからこそ、その相手を褒めれんのはかっけえんじゃね?」
「それ、絶対蓮が褒められたいだけだろ」
俺のことも褒めてよ、と楽しそうな海斗くんに言われる。海斗くんも蓮くんも、私より褒め称えてくれる生徒は山ほどいるでしょうに、なんで私なんだろうね? 困った顔を作り、真紀ちゃんに視線で助けを求めるも、こちらもまたにこにこと笑っているだけ。私の味方は一体どこにいるんだろう……
「あっ、咲良ちゃん! ……と、天宮くんに結城くんに坂井さん? ここで何してるの?」
「ついさっきまで蓮くんが演舞を披露してくれててね。その休憩を兼ねて雑談してたところだよ」
「そっか! 推薦型競技の選手のみんなに伝言があって、『推薦型競技の選手になっている人は、明日から金曜まで推薦型競技の練習をなしにする。その代わり、各団の選択種目の練習に参加すること』だって。そろそろ同じチームの人達と連携を取れるようにならないとだからね!」
「分かった。わざわざごめんね。ありがとう」
「気にしないで!」
私以外の三人に向けた伝言でもあるんだろうけど、なぜか私しか視界に入ってない気がするのは気のせいかな? 普段なら人気者で囲まれる側の三人なのに、こう雑に扱われているのを見ると不憫だなと思ってしまう。当人達は慣れているのか苦笑しているだけだけど……
私も同じように苦笑していると、『咲良ちゃん、運動得意だからどの競技もみんな期待してるみたいだよ! 頑張ってね!』と言って彼女は走り去っていった。
その後ろ姿を笑顔で見送りつつ、思わず手を背中に回して握りしめてしまった。爪が手のひらに突き刺さって痛い。直後、誰もいなかったはずの背後から『咲良』と呼ぶ声が聞こえた。思わず体が揺れ、恐る恐る振り向くと……
「あ、藍那……? 頼まれてた仕事は終わったの?」
「うん。それより咲良、その手、大丈夫?」
「えっ……あ、うん。だ……大丈夫だよ? あの、私用事思い出したからまた後でね!」
見られた。見られてしまった。よりにもよって、藍那に。藍那は意外と勘がいいところがあるし、特に私のことは良く見てくれている。でもまあ、これくらいなら大丈夫だとは思うよ。ただ手を握りしめているのを見られただけだから。きっと……何度も聞いた期待の言葉がそろそろ本当に苦痛に感じてきているのは悟られていないと思う。
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