20 桜の芽
事前に話し合っていたように、私と藍那の距離が五メートルくらいまで近付いた時、藍那は走り出した。
普通、ラストスパートをかけてさらに加速している場合、五メートルなんて距離は一秒も経たずに走り切れる。ただ今回は例外で、藍那は私と比べ物にならないほど足が速く、その上加速なしで全力を出せる。どんどん藍那との距離は開き、信じられないことにテイクオーバーゾーンの区間内でバトンパスをすることができなかった。
「咲良さーん、大丈夫?」
「だいっ……じょうぶ、ではないね……」
「やっぱりこの方法はきついでしょ。さっきまでのやり方に戻す?」
「そうだね……いや、一週間もらえない? この一週間でバトンパスできるようにならなかったら元のやり方にしよう」
「私は別に良いけど……」
咲良は大丈夫なのか、という声が藍那の表情のおかげで黙っていても聞こえてくる。まあ心配してくれるのも不思議ではない。だって二、三秒くらいで数十メートルの距離ができたからね。かなり息切れしているのもあるかもしれないけど、これは単純に蓮くんと話しながら走っていたのが原因だと思う。
「無理だなと思ったら遠慮なく言ってよ? ……って、あーっ!」
「え!? なに、どうしたの……?」
「咲良! 腕が真っ赤!」
「あー……これはただの日焼けだから大丈夫だよ。すぐ治るって」
「駄目に決まってるでしょ! 一年生の時、日焼けして熱中症になったの私覚えてるからね!?」
い、勢いが……それと日陰に向かって引きずらないでほしいかな……体勢を崩してこけそう。
「あれは日焼けでなったわけではないよ?」
「いいからそのかわいいお口を閉じなさい! 咲良、肌が真っ白だから日焼けしやすいでしょ。それで急に体が熱を持ったから熱中症に繋がったんじゃないかって言われてたじゃないの」
「あれは特に暑い日だったから、」
「咲良? こんなに女子力高いくせに日焼けは気にしないの?」
「日焼け止め塗ってるし、気にしてないわけではないよ? でもすぐ元に戻るんだよね」
だからそんなに騒ぐことでもないんだけどな……と思いつつ、大人しく同じチームで走り終えた子が休憩している木陰へ向かった。たまに私の保護者みたいになるんだよね、藍那って。
「あれ、藍那。それに瑠衣? なんで引っ張られてるの?」
「私、咲良休憩させ隊です! 熱中症になるのも時間の問題な気がしたので連れてきました!」
「へぇ……お疲れ様、藍那隊長。二人ともちゃんと休みなよ?」
「そうします」
色々と突っ込みどころはあるけれど、日焼けで肌が熱を持っているのは事実だから言うことは聞こう。そしてなぜか『咲良休憩させ隊』の話で盛り上がっている海斗くんと藍那を眺めて楽しもうかな。……『咲良休憩させ隊』なんてもの、いつの間にできたんだろう……
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