2 桜花爛漫
「はよ。伊島お前、また咲良に泣きついてんの? いい加減学べ、この運動バカ」
「うわ」
「おはよ、瑠衣」
「うん、おはよう」
私と藍那で話していると、先生に呼び出されていたらしい二人が帰ってきた。一人は天宮海斗という名前の学園一のモテ男子。高身長で顔が良く、勉強もスポーツもできる爽やか好青年。おまけに学園内で大規模なファンクラブまである。男女問わず好かれる性格なのもあって男子の中では一、二を争うくらいに発言力がある。
もう一人は結城蓮。父親が整形外科の院長、母親が内科の院長というとんでもない家庭で、しかも両方長く続いている病院なのでこの辺りでは有名な大金持ちの御曹司。私が努力して手に入れているものを素で取っていくタイプだからずっと敵認定してる。
「何だよその反応。そもそも咲良、お前が甘やかすからこいつが学ばないんじゃねえの?」
「ん? 私を巻き込まないでよ。そこで必死に書き写してる藍那が計画的に進めればいいだけでしょう」
言いたいことは分かるけどね。私も藍那に甘い自覚はある。だからせめて普段の課題くらいはちゃんとやらせるようにしているんだけど、ここで私のせいにするのは違うんじゃない?
私の言葉を聞いて項垂れたのを見るに、必死に書き写している最中でもしっかり会話は聞いているんだね、藍那。先生が来るまでに終われば良いけど、全部は無理だろうなぁ。周りの子達にも応援されてるよ。
「まあまあ、落ち着きなよ二人とも」
「瑠衣も蓮も、藍那にだけは言われたくないだろうね」
「そうだな」
「うん」
この言い争いの元凶だからね。
今日は一限目が始業式で、終わったら連絡事項を聞いたり自己紹介をして過ごし、お昼には下校という流れになっている。明日からは通常通り授業があるから初日はゆっくり過ごせとのこと。私達三年生は今年は受験生だから今まで以上に勉強に力を入れなければならない。藍那……大丈夫かな? 定期的に勉強会をした方が良いかもしれないね。
「海斗くん、呼び出されてたって聞いたけどまた何かやらかしたの?」
「またって……俺は何もやらかしたことはないと思うけど?」
「たしかに。じゃあ蓮くんの付き添いか」
「何もしてねえよ。ただの手伝いだ。だからその納得したような顔やめろ!」
あれ、違ったの? 本人も言うように優等生の海斗くんは叱られるようなことはしないだろうから、それなら蓮くんに巻き込まれたのかと思った。
「だって蓮くん口悪いし、サボり癖もあるから」
「別にいいだろそれは。お前は俺を何だと思ってんだ」
「問題児」
「私も咲良と同意見!」
「藍那は課題に集中した方がいいと思うよ。もうすぐ先生が来るんだから」
「え、やばっ!」
やばいやばい、と呟きながら必死に手を動かす藍那に、こちらを見ていたクラスメイトは苦笑していた。私を含むこの四人は一年生の時からクラスが同じで仲が良く、一緒に過ごすことが多い。文武両道で男子カーストトップの海斗くん、明るく元気で人気者の藍那、日頃の努力のおかげで女子カーストトップの私、そしてその三人に容赦なく突っ込む蓮くんは裏ボスと言われているらしく、学校内で最も発言力があるであろう私達はこうして生徒の注目を浴びることが多かった。
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