18 桜前線
◇
「藍那ファイト!」
「うん!」
時は経ち、四月も終わりが近付いた頃。私達は本格的に体育祭の練習を始めていた。先日は各団の一年生から三年生まで全員で集まり、団長や副団長からの挨拶、完成した団旗のお披露目などを行った。体育の授業でも体育祭に向けた学年や学校全体での練習が入るようになった。今はロングホームルームの時間で、推薦型競技や学年競技を団ごとに練習している。
私は推薦型競技のリレーの練習中。私達青団女子のリレー選手は特に足が速い二人が最後に走ることになった。大体みんな最初と最後に速い人を置いているだろうから、そこで一気に取り返して追い抜けるように。とは言っても、みんなクラスの代表に選ばれるだけあって足は速いんだけどね。ちなみに私は最後から二番目、他の団に抜かれているであろう時に少しでも差を縮める担当。そして藍那がアンカーになり、全力で一位を目指してくれる。
私も運動はできる方だけど、やっぱり長年陸上をやってきただけあって藍那とは比べ物にならない。たしか全盛期で五十メートル走のタイムが六秒前半って言ってたかな? 全国大会に出場したことがあるらしい。
この学園では推薦型競技のリレーは一人四百メートルと決まっている。グラウンドが一周二百メートルだから、一人二周しなければならないということだね。六人で走るから合計二千四百メートル。あまり聞かないルールだけど、一人あたりの走る距離が長いからこそ今回の私達の作戦は意味があると思う。
「お疲れ様」
「咲良もね! タイムは?」
「変わってないね。私達二人はそのままにして、前半四人の順番を変えてみる?」
「うーん……試すのはありだと思いますけど、慣れてしまったから私としてはこのままの方が走りやすいかもです」
第二走者の子の言葉に、他の三人も頷いてる。たしかにもう何度もこの順番で走っているから、ちょうど慣れてきている頃だよね。バトンを渡すタイミングなんかもあるから今更変えるのは難しいか……
ちなみに体育祭は再来週の日曜日。今日は月曜日なのであと二週間しかない。今のところ私達のチームは一位や二位ばかりだけど、本番でどうなるか分からないから不安だよね。
「……私と藍那、もうちょっと頑張れる気もするね。バトンパスのタイミングを変えてみる?」
「どんな感じ?」
「今、藍那はバトンパスの時に私に合わせてゆっくり走ってくれているでしょう? だから一度、バトンパスから藍那のペースに合わせてみようよ」
もう一歩分加速するくらいなら頑張ればできるかもしれない。藍那は少しずつペースを上げるんじゃなくて、最初から全力で走れるタイプだから、私に合わせてもらっているのがもったいない。
「できるの?」
「やってみせるよ。助走なしで全力を出せるのは藍那の一番の強みなんだから、これは生かした方がいいと思うし」
「りょーかい。じゃあ咲良との距離が残り五メートルくらいになったら走り出すね」
「分かった」
普通は二十メートルほど手前から助走を始めるものだけど、私と藍那の足の速さを比べるとこれでギリギリ。実は一年生の時も二年生の時も、体育祭では優勝できなかったんだよね。だから今年こそは優勝したい。推薦型競技は得点が高いから一位と二位で全体の順位が大きく変化する。きっと今から試すことが上手くいけばタイムは一気に縮むよ。
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