17 桜を潤すのは
「あ、藍那……この話はもういいから蓮くん達とも話そうよ」
「なんでだよ。俺らは男同士熱い話してんだ。混ざってくんな。どうせそんな機会中々ねえんだから大人しく褒められてろ」
「蓮くんが言う『熱い話』ってすごく嘘くさいね。似合わないよ?」
「うるせえ」
目には目を、歯には歯を、毒には毒を返すよ。相変わらず余計な一言を欠かさない男だね。
頬杖をつき、あえて上目遣いで意地悪な笑みを浮かべる彼に冷笑をプレゼントすると軽くあしらわれた。基本的に私と藍那、海斗くんと蓮くんで話しているか、私と蓮くんが言い合いをしているところに藍那が割り込んでくることが多いから、海斗くんは傍で静かにしているのがほとんどだけど、その状況をにこにこ笑うだけで無視してマイペースに自分のことをしているあたり、海斗くんにも私達と似た何かを感じるね。こういうタイプじゃないと藍那や蓮くんとは付き合っていけないのかもしれない。
「坂井さん、咲良って優しくてかわいくて、おまけにハイスペックですごいと思わない!? まさに女子の憧れって感じ!」
「ええ、私もそう思います……!」
ああ……蓮くんと話していたせいで話題を逸らせなかった。せめて笑顔が崩れることがないように気を付けよう。
「でも私が一番すごいと思うのは、誰も見ていないところで努力できるところかな。私だったら自分が努力していることを知ってほしいと思ってしまうけど、咲良は何も言わずに笑顔の裏で頑張ってる。その努力に裏付けられた自信を感じた時、すごく憧れの親友だなって思うの。『ねえみんな、私の親友はすごいでしょ!』って、そう言いたくなるくらい!」
「伊島さん、言語化がお上手ですね。すごく愛を感じます。お話を聞いているともっと憧れてしまいそう」
「ほんと? だって、咲良!」
「え、あ……あり、がと……」
どうしよう。いつもの笑顔が崩れないように。顔色を変えないように。絶対に気を付けようと思っていたのに……今、できてる?
胸が締め付けられているような感覚。とてもみんなに見せられる表情をしているとは思えなくて、咄嗟に俯いてしまった。
笑顔どころか、まともに返事もできていない。でも今だけは絶対に顔を見られたくない。許してほしい。だって、こんなこと言われるとは思わなかった。外面でも内面でもなく、私自身を見てくれているような……
本当の私のこと、知ってほしくない。でも知ってほしい。大切な友人だから。そんな矛盾した感情を抱いていたけれど、自分が思うより彼女は……藍那は私そのものを見ているのかもしれない。まだ偽の私に気付かれるほどではない。でもいつかバレるかもしれないと思うと恐ろしいと同時に、少しだけ楽しみでもあるかもしれない。ありのままの私を受け入れてくれる可能性もあるから。
藍那は本当の私を知っても傍にいてくれる? 親友でいてくれる? 嫌わないで、一緒にいてくれる? そう聞けたらどんなに良かったか。私は臆病だからそんなこと聞けない。こんなことで悩んでいる内は打ち明けることなどできない。
それでも藍那のこの言葉は……すごく、嬉しい。本当に。こんな風に思ってくれていたんだ。藍那は意味のないことで嘘を吐かないと知っているからこそ、この言葉も信じられる。
藍那の言葉はすごく嬉しくて、思わず泣いてしまいそうになったのを俯いて隠すくらいに────私の心は救われた。
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