13 桜に並ぶのは
「それでは『完全推薦型競技』の出場選手について話し合おうと思います。この競技は例年通り前年度の身体力テストの成績や運動部から選手を選ぶことになります。十五分以内に確定させるとなると、各種目で候補メンバーを挙げてから投票制にするのが良いでしょう。異論はありますか?」
普段全校生徒の前に立っているだけあって堂々と説明をする坂井さんは、ここまで話して一度言葉を止めた。そして教室内を見渡す。異論がないことを確認し、今度は各自挙手をして誰が良いと思うか意見を出すように指示され、各々運動部のエースやら、外部のコンテストで優秀な成績を収めたと有名な生徒やらを競技ごとに候補者として推薦していく。
この学園は後者の『外部のコンテストで優秀な成績を収めた』というような生徒が多い。なぜなら英才教育を受けている良家の子息令嬢が多いから。何度も言うけど、蓮くんがその代表的な例だよ。
「咲良お前、一体何をすれば全種目推薦されるんだよ」
「それは私が聞きたいかな。特に大玉転がしは突出した実力がないとできないわけでもないし、毎年やりたい人がやるっていうパターンが多かったのに」
そういう蓮くんも私と同じく、全種目推薦されているけれど。ある程度候補者が出切ったため、ここからは全員顔を伏せ、各種目ごとに一番適任だと思う人の名前が呼ばれた時に手を挙げて投票するらしい。
ダンスは恐らくダンス部の子、大玉転がしは身長が高くて体格が良い人。推薦型競技は掛け持ちできないから、海斗くんや蓮くんは選ばれないと思う。二人はリレーの男子枠で満場一致になるかな。女子二人の内一人は藍那で間違いない。一番意見が割れるのはきっと女子枠のリレー、藍那と一緒になる人だろうね。
「────顔を上げてください。完全推薦型競技三年四組の出場選手は黒板に書いてある通りになります。問題ありませんか?」
「俺、応援団長にも選ばれてんだけどリレーにも出ないといけねえのか? そんなに頑張るメリットないんだが」
「それはそうですね……結城くん、焼き肉は好きですか?」
「ああ。嫌いな奴いねえだろ」
隣を見ると、面倒そうでありながらどこか楽し気な瞳がそれがどうかしたのか、と坂井さんに問いかけている。……蓮くん、絶対何か知ってるね。それが何かまでは分からないけどそんな気がする。
「ではそんな結城くん、そして体育祭が少し憂鬱な皆さんに朗報です。今年の体育祭、なんと優勝した団は『超高級焼肉校長先生の奢り』だそうです」
「マジ!?」
「ええ、マジです。この時間が終わった後、各クラスでお知らせされる予定でした」
蓮くん、白々しいなぁ……これは校長先生と生徒会あたりで話し合って決めたことなんだろうけど、きっと蓮くんはどこからか情報を得ていたんだろうね。そしてこの推薦型競技で選出されて嫌そうにしている生徒をやる気にさせるため、わざわざこんな話題を持ち出した。蓮くんはこういうところあるし、十中八九私の予想通りだろうね。
それにしても『超高級焼肉校長先生の奢り』か……毎年この学園の体育祭は外部の人にも人気で盛り上がっていたけれど、今年はさらにお祭り騒ぎになりそう。私も高校生活最後の体育祭だから、こんな風にみんなで楽しめそうな雰囲気になってすごく嬉しい。正直に言うなら参加するよりも傍で眺めていたいけれど……自分にできる範囲でもっと盛り上がるように協力しようかな。
『完全推薦型リレー出場選手・天宮海斗、結城蓮、伊島藍那、瑠衣咲良。投票の結果、以上四名で確定する』
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