12 桜は学び、蓮は知る
私は今、笑うのを必死に堪えているせいで腹筋が崩壊しそうになっている。なぜこんな状況になっているのか。結論から言うと、体育祭の応援団長の話で『俺は何があってもやらねえからな!』と言っていた蓮くんが応援団長に決まったから。隣で不満そうに座っている蓮くんのせいで余計に笑ってしまう。
「なんで俺が……」
「っふ、お願いやめて。これ以上笑わせないで……っ!」
「勝手に笑ってろ。そして腹痛で苦しめ」
この数十分で私はとあることを学んだ。それは世の中にはフラグと呼ばれるものがあるから、本当にやりたくないことは蓮くんのように言葉にするべきではないということ。蓮くんも『くじ引き』という実力ではどうにもならない残酷な運試しがあることを知れて良かったんじゃない?
この学園の体育祭では藍那と話していた競技の他に、各チームの応援団による演舞などもある。チームは全学年の同じ組同士……つまり、一年一組と二年一組、三年一組で一つのチームとなる。他のクラスも同じ。そして各団に一つの応援団が形成される。
応援団は一クラスあたり男女計十名で、一つの団に三クラスいるので全部で三十名になる。加えて、三年生は団長を一名、二年生は副団長を一名選ばなければならないので、それも合わせると一つの団につき三十二名の応援団が形成される、ということ。応援団長や副団長は演舞の練習や準備などが面倒なので毎年不人気らしい。今年もそれは同じで、立候補者が誰もいなかったために文句なしのくじ引きが行われ、結果たった一つしかない当たりを蓮くんが引いてしまった、というのがここまでの話。
「せんせー、やり直しを要求します」
「断る。たまにはかっこいい姿でも見せてみろ」
「普段からかっこいいですよ」
なので切実にやり直しを要求したいのですが、と半ば諦めた顔で言う蓮くん。たしかにかっこいいかもしれないけど、そういうのって自分で言うことかな……?
「駄目だ。じゃあ次、完全推薦型競技の選手を決めます。種目は例年通りのリレー、ダンス、大玉転がしの三つ。男女各二名ずつなので十五分以内にすべて確定させてください。そうだな……生徒会長の坂井に仕切ってもらおう。頼めるか?」
「はい、分かりました」
桜華学園三年四組在籍、生徒会長の坂井真紀さん。……ああ、そっか。優しさと意思の強さ、そしてなぜか少しだけ緊張感もある視線が今一瞬私の方に向いた。これは昨日の下校前に感じた視線と同じものだったからすぐに分かったよ。
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