107 桜の師へ
「橋本先生」
校舎を出て荷物を預けた私は、見失ってしまう前に担任の橋本先生の元へ向かった。集団から少し離れたところではあるものの、思っていたよりも近くにいたからすぐに居場所が分かった。
「瑠衣か。どうした?」
「先生、三年間ありがとうございました。これを」
「……いいのか?」
「ええ。受験のことも色々とお世話になりましたし、私の本当の姿を知っている人が傍にいるというのは気が楽でした。これでもすごく感謝しているのですよ」
お母さんに預かってもらっていた花束を渡すと、困惑と喜びが混ざったような顔をされる。きっと素直な私を不気味だと思ってるね、この先生は。こんなでも一応、親身になってくださった先生には恩は感じているんですよ。私にとって橋本先生は心の支えだった。
「これにて取引は終了ですね」
「お前の頑張る理由、ちゃんと意味のあるものになったか?」
「もちろん。今日の私を見ていたのではないですか? 私、今日一度も一人きりになっていないのですよ。ずっと誰かに祝福されたり、クラスメイトや友人と思い出話をしていました。これこそが私の望んでいた未来です」
「それは良かった。じゃあ取引の時に言おうとしたことを話そう。俺が新任だった頃、先輩教師から『教師にとって一番大切なことはなんだと思う?』と聞かれたことがある」
教師にとって一番大切なこと……話の流れ的に、『生徒のことを親身になってサポートすること』かな? 思ったままに聞いてみると、順番が違うと言われた。
「答えは『生徒を志望校に受からせること』。それが俺達教師が最も優先すべきことだと、その先輩は言った。だから『生徒を志望校に受からせること』ができるよう、親身になってサポートするんだ。俺はその意見に納得したな。だって生徒が学校に通う理由なんて、自分の将来のためでしかないだろ?」
「そうですね。じゃあ私を支えてくださっていたのも同じ理由ですか?」
「まあな。生徒の進路をサポートするというのは、イコール学校での生活もサポートするということだと俺は思う。どちらも教師として当たり前のことだが、どの順番で考えるかの違いだな。それから、俺が生徒を全力で支えたいと考ている理由が一つ、私的なものである」
ややこしい話だけど、何となく言いたいことは分かったような気がする。そして最後の言葉が気になるな。私的な理由ってなに……?
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