表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】桜吹雪レコード  作者: 山咲莉亜
桜吹雪レコード  ~失った日々をもう一度~
105/116

103 桜舞う日の思い出

 ◇


 ────暖かく、澄み渡る空。たまに吹く風は甘い花の匂いを纏っている。今日は三月一日、桜華学園の卒業式の日。三年間通ったこの道を歩きながら、私は学園に向かう。世界はいつも通りの何一つ変わらない日だけれど、桜華学園周辺は少しだけ緊張感が漂っているような気がした。


 今日は私の卒業式ということで、わざわざ休みを取って神奈川に来てくれた両親はマンションのエントランスまで送り出してくれた。綺麗にアイロンがけされた制服はお母さんが、いつものハーフアップではなくサイドを編み込んだかわいい髪型はお父さんがしてくれたもの。リボンはいつもと同じ、寒緋桜の色。


 三年前と全く同じ状況のはずなのに、最後の学校へと送り出してくれた両親はただただ嬉しそうな顔をしていた。その顔を見れただけで満足かな、と思ってしまうくらいには。三年前、中学の卒業式の日はね、嬉しさと心配が混ざったような顔をしていたんだよ。行く予定がなかったけれど、最後くらいはと言って前日に式への出席を決めた私に『無理しなくていいんだよ』って。ずっと支えてくれていた両親にそんな顔をさせてしまって、本当に自分が情けなくなった。最後くらいは両親に報いたかったのに。だからもう、安心してる。すでに私の夢の半分くらいは叶ったからね。


「咲良おはよー!」

「おはよう藍那。今日も早いね」

「珍しく海斗と蓮の方が早かった……と言ったら驚く?」

「……そうなの? 毎日一番乗りの藍那より先って早すぎない!?」

「だよね!」


 その海斗くんと蓮くんは先生に呼び出されて職員室に行っているらしい。なんだか同じようなやり取りを前にもしたな……と思ったけど、三年生になった最初の日だね。あの日も藍那より先に登校した二人が先生に呼び出されていたから。


「やっぱりあの二人、何かやらかしたんじゃない?」

「! ……ふふ、楽しそうな顔で言わないの」


 あの時のやり取り、藍那も覚えていたんだ。本当に日常的な会話で、何気なく交わしていた言葉だというのに。やっぱり自分との会話を覚えてもらえていると嬉しくなるね。


「はよ。なんか聞き覚えのある会話だと思ったら、始業式の日のやつだろ」

「海斗くん、呼び出されてたって聞いたけどまた何かやらかしちゃった?」

「咲良? だから俺、何もやらかしたことはないからね? 三年間優等生だったよ」

「それもそっか。じゃあ蓮くんの付き添いだね」

「俺も何もしてねえ。決めつけんな」


 あれ、おかしいな? 今度こそ何かやらかして、卒業式当日に呼び出されてしまったのかと思ったよ。わざとらしく首を傾げると、優しい顔で『これで満足だろ』とでも言わんばかりに微笑まれた。うん、付き合ってくれてありがとう。すごく懐かしい気分になったよ。

ご覧いただきありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ