103 桜舞う日の思い出
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────暖かく、澄み渡る空。たまに吹く風は甘い花の匂いを纏っている。今日は三月一日、桜華学園の卒業式の日。三年間通ったこの道を歩きながら、私は学園に向かう。世界はいつも通りの何一つ変わらない日だけれど、桜華学園周辺は少しだけ緊張感が漂っているような気がした。
今日は私の卒業式ということで、わざわざ休みを取って神奈川に来てくれた両親はマンションのエントランスまで送り出してくれた。綺麗にアイロンがけされた制服はお母さんが、いつものハーフアップではなくサイドを編み込んだかわいい髪型はお父さんがしてくれたもの。リボンはいつもと同じ、寒緋桜の色。
三年前と全く同じ状況のはずなのに、最後の学校へと送り出してくれた両親はただただ嬉しそうな顔をしていた。その顔を見れただけで満足かな、と思ってしまうくらいには。三年前、中学の卒業式の日はね、嬉しさと心配が混ざったような顔をしていたんだよ。行く予定がなかったけれど、最後くらいはと言って前日に式への出席を決めた私に『無理しなくていいんだよ』って。ずっと支えてくれていた両親にそんな顔をさせてしまって、本当に自分が情けなくなった。最後くらいは両親に報いたかったのに。だからもう、安心してる。すでに私の夢の半分くらいは叶ったからね。
「咲良おはよー!」
「おはよう藍那。今日も早いね」
「珍しく海斗と蓮の方が早かった……と言ったら驚く?」
「……そうなの? 毎日一番乗りの藍那より先って早すぎない!?」
「だよね!」
その海斗くんと蓮くんは先生に呼び出されて職員室に行っているらしい。なんだか同じようなやり取りを前にもしたな……と思ったけど、三年生になった最初の日だね。あの日も藍那より先に登校した二人が先生に呼び出されていたから。
「やっぱりあの二人、何かやらかしたんじゃない?」
「! ……ふふ、楽しそうな顔で言わないの」
あの時のやり取り、藍那も覚えていたんだ。本当に日常的な会話で、何気なく交わしていた言葉だというのに。やっぱり自分との会話を覚えてもらえていると嬉しくなるね。
「はよ。なんか聞き覚えのある会話だと思ったら、始業式の日のやつだろ」
「海斗くん、呼び出されてたって聞いたけどまた何かやらかしちゃった?」
「咲良? だから俺、何もやらかしたことはないからね? 三年間優等生だったよ」
「それもそっか。じゃあ蓮くんの付き添いだね」
「俺も何もしてねえ。決めつけんな」
あれ、おかしいな? 今度こそ何かやらかして、卒業式当日に呼び出されてしまったのかと思ったよ。わざとらしく首を傾げると、優しい顔で『これで満足だろ』とでも言わんばかりに微笑まれた。うん、付き合ってくれてありがとう。すごく懐かしい気分になったよ。
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