102 桜は努力
東京都に存在する、国内トップクラスの学力を誇る東都大学。門をくぐり、受験番号が掲示されている場所へ向かって歩く。迷うはずはない。だって多くの人が集まっている場所を目指せばいいだけだもの。私は一人で確認しにきたけれど、親と一緒に来ている人がほとんどみたいだね。そして余程のことでもない限り、こういうのは初日に確認するものだから、掲示される三日間の中でも一番人が多いと思う。
自分の受験番号六桁と照らし合わせながら、掲示されている番号を順番に確認していく。掲示を見つめて約二十秒────私の受験番号が、そこにあった。合格だ……!
自分の手元にある紙と掲示されている番号を一緒に撮影し、家族で共有しているチャット欄へ送ればすぐに既読が付いた。お父さんは仕事中だし、これはきっとお母さんだね。きっと今夜あたりにお父さんと一緒に電話を掛けてくるだろうし、その時に改めて受験勉強に付き合ってくれたお礼を言っておこうかな。歓喜と悲しみ、両方の声が響く中、私は一人静かにその場を後にした。
『個別試験終了。あとは結果待ちです!』
新幹線で神奈川に帰り、家でゆっくり過ごしているとそんなメールが来た。なので私も『志望校、無事合格でした!』と報告する。藍那のプレッシャーにならないよう、この報告が来るまでは待っているつもりだったんだけど、思っていたより早く終わったみたい。藍那は個別試験も自信があるらしいね。これは結果が楽しみだな。
そんなことを思っているとスマホから着信音が鳴り始めた。相手は……蓮くんだ。
『よお』
「どうしたの?」
『まずは受験合格おめでとう』
「うん、ありがとう。蓮くんも明日確認しに行くんだよね?」
『ああ。ちょうどその件で言っておきたいことがあってな。……東都大学、もし受かったら前と違ってちゃんとお前に告白するから。本当はもっと早く報告する予定だったが、お前が受験に集中できないと困るだろうと思ったからこのタイミング』
それはそれは、非常にありがたい配慮だね。それにしても『ちゃんとお前に告白する』、か……こういうの、普通は付き合ってほしいって言うものなんじゃないの? それに、落ちるフラグになるよね?
もちろん蓮くんが不合格のはずがないと分かっているけれど、こんなことを言われると少し不安になってきた。蓮くん、普段の態度から考えると二次試験の面接あたりでやらかしてる可能性あるし。
「……そう。つまり、私に蓮くんのことで頭いっぱいになりながら過ごせ、って言いたいわけだね?」
『そうなるな。まあ咲良が俺に恋愛感情を持っていないのであれば、そうはならねえだろうが』
「分かった。じゃあ応援してるよ、またね」
蓮くん、私は受験が終わったからもう恋愛解禁なんだよ。解禁直後にそんな爆弾を投下しないでもらえるかな? 私の心臓がいくつあっても足りなくなってしまうよ?
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