100 山桜のプロローグ
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────運命の二日間が終わった。共通テスト一日目が地理歴史・公民、国語、外国語。二日目が理科、数学、情報。一部選択科目あり。
自己採点だと、少なくとも東都大学のボーダーは余裕で超えている。初歩的なミスがなければ全教科満点なんじゃないかな。
私はね、別に外国語全般が苦手なわけではないんだよ。なぜか英語だけができないのであって、多言語話者であるお母さんの影響か、英語以外はむしろ得意なくらい。他の教科も何一つ問題がないから、私は徹底的に英語の勉強だけをしていた。大事な受験だからとお母さんもわざわざ時間を作って、長時間付き合ってくれたよ。そのおかげもあってか、理解できない問題は一つもなかった。これ以上私にできることはない。あとは結果を待つだけ。
『藍那帰宅。自己採点、志望校のボーダー以上は確実』
『蓮帰宅。自己採点、全教科満点ほぼ確実』
私と藍那、海斗くんに蓮くんの四人用グループチャットで事務的な報告が続いている。蓮くんの結果はさすがとしか言いようがないし、藍那もこの学園の生徒なだけあってかなりレベルの高い大学を選んでいたはず。藍那の志望校の個別試験だと彼女は有利だろうし、これは合格する確率がかなり高いかもしれない。
私も二人と同じように『咲良帰宅。自己採点、全教科満点』という文章を送信した。同時に三人分の既読が付く。そして最後に海斗くんから、『三人とも共通テストお疲れ様! あとは蓮と咲良は祈るだけ、藍那は個別試験。頑張れ……!』という文章が送られてきた。
普段はもっと活発に動いているチャット欄だけど、冬休みが明けてからは勉強に集中するために必要最低限だけにしようと話し合っていた。私もスタンプしか送っていないけど、本当に藍那のことを応援しているからね……!
『はい、瑠衣です』
「もしもし? 今さっき共通テストが終わって帰宅したから、その報告にと思って連絡したの」
『そっか、お疲れ様。結果は?』
「二次試験次第だけど、少なくとも学力試験での不備はないはずだよ」
三人への連絡を終え、今度はお父さんに電話を掛けた。今日は珍しくお父さんが休み、お母さんだけ仕事、という話を聞いていたのでこちらに連絡している。私もさすがに疲れ切っていて休みたいので手短に報告を済ませることにする。
「お母さんに英語の勉強に付き合ってくれてありがとう、と伝えておいて」
『分かった。合格していたらこっちに帰ってくるんだよね? それとも、また学校の近くでマンション買う?』
「うーん……家からそんなに離れていないし、とりあえずは本家から通おうかな。もしかすると途中で買ってもらうことになるかもしれないけど、詳しいことは合格発表があってから決めるよ。合格していれば東京に帰るのは間違いないとだけ」
『了解。麗奈にもそう伝えておくね。じゃあおやすみ、今日はゆっくり休んで』
「おやすみなさい」
最後にもう一度だけお礼を言い、電話を切ってベッドにダイブする。本当に疲れた。受験勉強もだし、試験自体も。もうこれ以上一歩も動ける気がしない。これで落ちてしまったら、なんて考える気はない。私にできることはやり切ったから、あとは結果を待つだけだよ。こんなにストレスを抱えた生活は久しぶりだった。精神的にも追い込まれていて、私を好きでいてくれる下級生の子達の視線にもイライラしてしまっていた。あの緊迫感の中で立場を保つのも大変で、もうすべてを投げ出したくなったよ。そんなことをすればこれまでの努力がすべて水泡に帰すから、理性的にやめておいたけれど……
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