99 乱れる桜
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「……というわけで、ここの問題の答えはこうなるわけですが────」
志望校の一次選考合否、二次選考の受験、クリスマスパーティーを兼ねた勉強会に初詣……主に勉強で忙しないながらも、また新しい年が幕を開けた。受験前最後の長い休みが終わった私達は、ほとんどの高校三年生が挑む大学入学共通テストのために勉強漬けの日々を送っている。
当日まで残り数週間を切り、現実味を帯びてきたのか、最近は三年生の教室がある廊下だけ異様に静かでピリピリとした雰囲気が漂っている。授業、授業間の小休憩、お昼休み、登下校。そのすべてで何かしら参考書や教科書を持って勉強をしている生徒ばかり。だから下級生もあまり三年生には近付かないし、先生達もストレスを与えないようにか比較的静かに授業を進めていた。
「瑠衣さん、集中」
「はい」
上の空で聞いていると注意されてしまった。この時期にちゃんと勉強していないと思われるのは良くない。
進路相談の際、橋本先生は焦らなくても大丈夫だろうと言ってくれていた。私もそう思う。だけど大学受験というのは人生が掛かっているものだし、特に私は絶対に落ちるわけにはいかない。私の両親はかなり自由に過ごさせてくれていた。この学園で学べているのもそのおかげ。だけど跡取りである以上、義務付けられていることもある。その一つが、私の志望校である『東都大学』の医学部に脳神経医学専攻で入学すること。
だからね、やっぱり大丈夫と言われて自分でもそれが分かっていても、焦ってしまうよ。焦るというか、気を抜くことができない。私の志望校、国内トップの大学だもん。
海斗くんはすでに受験が終わっているから、復習メインで勉強しながら登校後や休み時間、放課後は部活の後輩達と一緒にバレーの練習をしている。彼はバレーボールの道に進むのだから、それが正しいと思うよ。蓮くんは私と同じく成績優秀でそう焦る必要もないから、少なくとも表面上は落ち着いて学んでいる感じかな。
藍那は私の予想とは違って、冬休みが明けてからは何一つ文句を言わず、ずっと一人で静かに勉強をしている。たまに問題集を解いている時に教えてほしいと言われるんだけど、その必要がないくらい完璧なんだよね。やっぱり藍那、陸上で好成績を残し続けていただけあって、やる気さえ出れば十分に努力できるタイプなんだろうな。
「では、今日の授業は以上です。残りの時間は各自問題集等で受験勉強に使ってください。静かにであれば、近くの席の人と相談することも許可します」
冬休みが明けてから、どの授業でも恒例となったこの言葉。最近ではどの教科の先生も早めに授業を終えて自分のペースで勉強する時間を作ってくれる。だから私もいつも通り隣の席の蓮くんに視線を送れば、『分かっている』とでも言わんばかりに小さく頷いてくれた。問題集の中から二十問ほどランダムで抜き出し、相手がまとめた問題を解く。これが私達がやるようになった、新しい勉強法だよ。
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