10 碧海は観桜
「最後に案内するのは中庭だよ。この学園の中庭はとにかく広くて、噴水やちょっとしたお花畑もあるの。さっき案内したカフェテリアから見る景色がすごく綺麗だから、ぜひ一度は見てみてね」
「季節ごとに別の景色を楽しめるので窓際の席はすごく人気なんですよね。あの席を確保するのに人生を懸けているんじゃないかってくらい、毎回必死で陣取っている猛者もいます」
「そ、そんなにすごいんですか……」
それはさすがに盛ってるような……と思ったけど、そうでもないかもしれない。四限目が終わるなり走ってカフェテリアに向かう人もいるくらいだしね。ただまあ、廊下で走ると人にぶつかって危ないからいつも注意されてるけど。
「あ、これが最初に言っていた校内地図だよ。ここと職員室前にあるから覚えておくのをおすすめするね。この階は三年、三階が二年、一年生の教室は四階。これは知ってると思うけど一応ね」
説明しながら階段を下り、中庭に出るとすごく既視感のある光景が広がっていた。そうなんだよね、実は私達の中で一番人気があるのは海斗くんなんだよ……
「お。咲良、もちろん助けに行くんだろ?」
「無理です」
にやにやとこちらに視線を向けてくる蓮くんに即答する。さっき蓮くんには文句言ったけど、私も海斗くんを助ける気にはなれない。学園内で唯一公式ファンクラブがある彼、天宮海斗くん。間違いなくこちらも被害を被るし、周囲の女子に恨まれそう。
海斗くんは私よりファンの子の扱いが上手いから大丈夫でしょう。心の中で言い訳し、そっと目を逸らしておいた。
「あすちゃんも言っていたように、ここの景色は季節ごとに変わるからシーズンごとに写真を撮っておくと楽しいかもしれないね」
私も写真を撮ってる。刺繍が好きだから写真に撮った景色を活用して作品を作っているんだよね。
「あとは……何か気になることはある?」
「はい。各学年の教室は本館にあるとのことですが、美術室のような教室はどこにあるのでしょうか?」
「各学年の教室、校長室、職員室、保健室以外は基本的に特別棟にあるよ。カフェテリアに行く時、別の棟と繋がる渡り廊下を通ったんだけど覚えているかな? そうだね……カフェテリアがあるのが特別棟って覚えておくと分かりやすいよ。渡り廊下は各階にあるから不安なら休み時間に確認しておくのがいいかな」
「なるほど……ありがとうございます」
他は大丈夫そうだね。四限が終わるまでまだ少し時間があるけど、案内が終わったら午後の授業までは自由時間になるそうだから……
「じゃあ……今日はこれで解散かな?」
「だな」
「ありがとうございました! 瑠衣先輩、よかったらこれからも仲良くしていただけると嬉しいです!」
「私でいいなら喜んで。でも蓮くんと喧嘩しないようにね?」
「はい。結城先輩は何だろう……ライバルのようなものなので、言い合いはするかもしれませんが嫌いなわけではないですよ」
私と同じようなことを言ってるね。でもライバル……? 二人とも、たぶん今日が初対面だよね。案内を始める前も何か話してたみたいだから気になってたんだけど、この短い時間で何があったんだろうね。まあ日向くんはこう言ってるし、たぶん蓮くんも同じだから大丈夫かな。喧嘩するほど仲がいい、というやつかもしれない。
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