003.不可侵の森への侵入
騎士団・ロイヤルガードに完全包囲されていたヴォイドは、次々と飛んでくる波状攻撃の嵐を全て躱し続けていた。魔法で攻撃しても攻撃が届く前に当たり前のように避けられる。避けた隙に近接攻撃を叩き込もうとしても、驚異的な反射神経を持っているのだろうか? 難なく攻撃を見切り、また躱す。
そして攻撃を回避したヴォイドは、強烈な反撃をお見舞いする。
一体何人の騎士団と冒険者がヴォイドの反撃によって気絶しただろうか。
次第に近接攻撃はなくなっていき、いつしか魔法だけが飛び交うようになっている。
「くそ、なぜこんなにも攻撃が当たらん!」
自慢の攻撃が避けられ続ける事にイラだちを覚える者も出始めてきたが、本来ロイヤルガードの目的はここでヴォイドに攻撃を当てる事ではないのだ。
絶対不可侵の森と言われているエルフの森へと徐々にヴォイドを追いつめていき、その森の中にいる亜人であるエルフに処刑をさせる。
ヴォイドの足がその森へ入る境界線を踏んだ瞬間、"死"が確定する。
ヴォイドは防戦一方の身であるが、反撃しようと思えばザルグレイドと戦った時のように攻撃を避け続け一名一名を戦闘不能にさせる事も容易かった。
しかし、今はこんな状況を作り出したであろう張本人であるオスロック。裏で糸を引いているであろう彼に対しての揺るがぬ証拠が欲しい。
そしてその証拠を付きつけ、自分が無罪であるという事実を証明する。
(あの森で身を隠すことが出来そうだな)
いくら避けるのが得意だとは言っても、体力の方には限界という物がある。
ヴォイドは一旦息を入れるために身を隠す場所として眼前に広がる森に逃げる事を決意した。
だがその森が人間の侵入を許さないエフルの森だというのは知る由もないが。
そんなヴォイドは反撃に出る事なく、ただひたすらに向かってくる攻撃を避け続けながらエルフの森の入口へと足を進めていた。
「よし、森に入れたぞ!」
ヴォイドは身を投げるように森へと駆け込む。
その瞬間、ヴォイドは全身の皮膚という皮膚がヒリつくのを感じた。
「なんだ……この感覚は?」
ヴォイドが森に入った直後、激しさを増していた攻撃の音は少し収まりを見せていた。
だが、森の木々の隙間から確認する限り、まだ攻撃の手は止めていなかった。
「よし、しばらくはここで一息付けそうだ」
ヴォイドはなぜオスロックがこんな形で自分を陥れようとしているのかが、イマイチ分からなかった。確かにパーティ内での立場や戦闘能力を考慮すれば不満が出るのは分かるのだが、俺はあいつの言う事や命令に忠実に従い、さらにはイカれた遊びにも散々付き合っていた。
「わからない。オスロック、一体何が目的なんだ……?」
ぶつぶつと考え事をしている内に、自然と足を動かしていたヴォイド。
その足はどんどん森の深部の方へと向かって行っていた。
「いけないいけない。昔から何か考え事をするときは歩く癖があるな。
ただでさえ広い森なのに無作為に奥の方にいったら不味いか」
だがそうも言っていられなかった。
敵が探知系の魔法を使い、ヴォイドの位置をある程度把握しているのかは不明だが、足を止め様子をうかがっているとその場所目掛けて魔法が飛んでくる。
「くそっ! しつこい奴らだな!」
ヴォイドは更に奥へ奥へと進んでいく。迷ってもどこかで一直線に進んでいけばいつかは森の外へ出られるだろうという軽い考えで。
だがそれは、オスロックやザルグレイドの誘導だとも知らずに……。
ヴォイドはとにかく足を進める。
そして、森の入り口で感じた肌のヒリつきとはまた一段と切れ味を増したような鋭い殺気に身を焼かれ、何か異常を感じ取った。
「……空気も冷たいな。なんだ、ここは」
その異様な雰囲気に、思わず武器を取り構える。
そんなヴォイドの行動を見て、森の奥から声が響いた。
「止まりなさい。ここより先はエルフの森の領域。人間が決して侵入してはいけない神聖な場所よ。
一歩でもその足が踏み入る事があれば警告を無視したと断定し、殺すことになるわ」
透き通るような美しくも、強気な声色と口調でヴォイドは警告を受けた。
「なんの森だって? ごめん、ちょっと今人と話をしている暇がないんだ。
申し訳ないんだけどこの場所に詳しかったら少し道案内とか頼めたりします?」
「……引き返しなさい」
「ちょっとこっちにも事情があってですね、
今引き返したら少しマズい状態なんですよ!」
ヴォイドは森の外で攻撃している騎士たちの事を気にしている。
いつまでも止まない攻撃に多少は危機感を持っているヴォイドは焦りもあった。
なので警告を聞く余裕もなく、歩を進める。
そしてその足が、森の奥から聞こえて来た声の主の領域とやらを超えてしまった。
「愚かな侵入者ね。総員、構え。……撃て!」
声の主がそう号令すると、四方八方から魔力が込められた矢が放たれた。