001.プロローグ
ある証人は言った。
『あの姿は人間ではなかった』と。
またある証人は言った。
『無差別に我々を襲う姿はまるで悪魔のようだった』と。
また別の証人は言った。
『奴には国家反逆罪としての烙印を押すべきだ』と。
これらは皆【ヘルベンディア王国】に仕える騎士団の証言だ。
騎士団名【ロイヤルガード】。ヘルベンディア王国で有数の実力者から成る国一番の戦闘力を保有している騎士団だ。それほどまでの騎士団が皆、口を揃えてこう言った。
「――ヴォイド・エンプティア。奴にはいかなる攻撃も通用しない」
「と、言うと?」
「我々ロイヤルガードは確実に奴を死に至らしめる攻撃をしたつもりだった。それも完全に包囲した状態で、です。しかし奴、ヴォイドはそんな攻撃の包囲網をかいくぐり我々に反撃の一撃を食らわせたのです。どうやったらあの包囲網から抜け出せたのかが未だに分かりませんが……」
「それだけじゃない。奴には不可解なほど攻撃が当たらない。いかなる手段で攻撃しようとこちらの攻撃を無効化、更には不可視の剣閃と言われる彼の攻撃を何食わぬ顔をしながら回避して、そこから重傷になるほどのキツい一撃を反撃で叩き込んできた。やはり奴は人間とは思えない」
「人間とは思えないではなく、奴は人間ではなかったであろう。ここにいる皆は、奴の……ヴォイドの豹変した姿をしっかりと目に焼け付けたはずだ。あの姿はまるで……」
――魔物だった。