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第3話~自己紹介~

 僕には早速友達ができた。それもかなりレベルの高い美女だ。上手く話せなかった、緊張で会話も弾まなかったとか思うところは色々あるが、それ以上に友達ができたって言うことが嬉しかった。僕は窓の外を眺めながら少しニヤついていた。自分でも完全に浮かれていることが分かるくらい浮かれていた。自己紹介程度の会話しかしていないとは言っても女子から話しかけられたのは片手で数えきれるほどの出来事だ。僕にとってはこれ以上もないくらいの大事件のようなものだ。


 しばらく窓の外を眺めていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。白河里穂が教室に入ってきて周りの生徒と談笑している姿が見えた。僕は少し彼女の方に視線を移し、教室内をジーっと見渡した。それぞれの生徒が各々の席で緊張の時間を過ごす中、彼女だけは周りと楽しそうに話している。僕はそんな彼女を見てどこか嫉妬してしまった。自分も彼女みたいに積極的に行きたいし、何も緊張せずに話がしたいと思った。彼女はいわゆる陽キャと呼ばれるような存在で美人。僕とは真逆な人と昔から感じており羨望の眼差しを向けていたような相手だ。彼女みたいな人を見ていると、変わろうとしてもいつまでも過去の自分を引きずっているのがだんだん嫌になってくるのだ。多様性の時代で、他人のことを深く理解する時代でも人間の好き嫌いはある。僕は自分みたいな人間が好かれる方が珍しいと思っていたし、彼女を見るといつもそう思ってしまう。


 緊張の入学式を終え、僕は帰路につこうと思って鞄を持った。すると里穂が近づいてきた。

 「はじめまして。白河里穂って言うわ。これからよろしくね!」


 なんということだ。僕は結構驚いた。それもそうだ。地元ではマドンナ的な扱いをされていた彼女が僕のことに気が付いていないのだ。陰キャなんて覚えてすらいないと言えばそれまでだが僕がいた中学はちょっと事情が違う。同級生は35人のド田舎にある中学校なのだ。どんなに人覚えの悪い人でも三年間同じだったクラスメイトを僅か一カ月で忘れることはないと思う。彼女が記憶喪失でもしていない限りはそんなことはおかしいのだ。


 すると横の紗季が話しかけてきた。


 「里穂ちゃん、みんなに挨拶してたみたいだね。可愛いし積極的だし、私も見習わないといけないことばかりね...。」

 「みんなに挨拶してたんだ...。じゃあ僕はこれで...。また明日...。」


 僕は里穂が同じ地元の出身だということを打ち明けようか迷った。でもそんな人にはじめましてって挨拶するかって言われたら何も返せないだろうし、地元の話になったらなんで認知されてないのかってなりそうで怖かったから明かさずにその場をやり過ごした。


 そして少し足早に家へ帰ると誰もいない一人の空間が待っていた。このマンションに住んで一週間が経つが未だにご近所さんを見たこともない。挨拶は初めて会った時にしようと思っていたら学校がスタートしてしまっていた。一人暮らしは案外快適で、家に帰ったらテレビでアニメを見ながらコンビニで買ってきた弁当を食べるという日々だった。引っ越しの時に買ってもらった調理器具は一切手を付けておらず、片づけも苦手だから部屋はどんどん物がたまっていくけど、二人用のソファでいつも快適に過ごしている。


 今日は少し自分の中でもいつも以上に疲れた気がした。新学期を迎える緊張と新たな出会い、名門校という肩書きなど色々なことを無駄に意識しすぎて気疲れしてしまったようだ。今日はいつもより早めにお風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。目を瞑って僕は明日からの学校生活を何となく考えていた。それでも一番気掛かりだったのが里穂のことだ。なんで気付かなかったのか、もしかしたら気付いていたけど知らないふりをしていたのか。もしそうなら彼女はなぜそんなようなことしたのか僕には何もわからなかった。


 次の日。

 今日はクラスで自己紹介を出席番号順で行うことが昨日予告されていた。どうやらこの学校のクラス決めは完全に学力順で選ばれており、三年間クラス替えはないらしい。1組が頭良くて10組が頭が悪いとかはなく、クラス番号はランダムでつけられているのだとか。


 そんなことはどうだっていい。今日は僕にとって運命の一日のようなものなのだから。自己紹介をするということ。言わば第一印象をクラスメイトに見せつける場ということだ。いかに自分という人間を良く見せるか、これが全てだと思う。変なことを言うととりあえず一カ月程度はそれをみんな引きずるだろう。とにかくここに懸ける思いは特別だ。


 「それじゃあ一番の相田さんからやってもらいましょうか。」

 「はじめまして。山梨県出身の相田ソラ(あいだそら)と言います!『そら』って呼んでください!地方出身でこっちに友達いません。だからみんな仲良くしてください!よろしくお願いします。」


 とうとう始まった。僕は出席番号が6番だから比較的早いうちに回ってくるから余計に緊張していた。特に僕の前は4人女子が続いている。面白いことの一つでも言えればきっと人気者にでもなれるのだけど僕はそういう人間ではない。頭の中でじっくり考えていたら自分の前まで順番が回って来ていた。


 「大阪府出身の難波ハル(なんばはる)で~す。趣味は可愛い子の観察で~す!ここのみんなめっちゃ可愛いからマジで来てよかった~って思ってマ~ス!みんなよろしく~。」


 難波さん。僕は思ったのは漫画の世界にしかいないと思っていた白ギャルが目の前にいるということだ。漫画の世界ではギャルは結構オタクに優しいイメージがあるけど本当に実際でもそうなのかと思っていた。そして迎えた自分の番だった。


 「岐阜県出身の岡部拓也です。僕はド田舎出身で自分を変えたくてここに来ました。都会のノリとかわかんないし、友達も今までは小さなコミュニティだけで過ごしてきたので少ないですが、少しでもみんなに馴染んでいけるように頑張りますのでよろしくお願いします。」


 少し自分でも考えていたこととは違うことを喋ってしまったが、クラスメイトからは大きな拍手が起こっていたので、結果オーライかなと僕は思った。小さなコミュニティって言葉を僕が選んで口にしたのにはとある理由があった。


 「愛知県出身の加賀紗季です。」

 「山形県出身の小森なずな(こもりなずな)です。」

 「愛知県出身の桜木柊(さくらぎしゅう)です。」


 その後も自己紹介は続いていった。そして里穂の順番を迎えた。


 「岐阜県出身の白河里穂です。昨日みんなに軽く挨拶はしたけど改めてよろしくお願いします。実は私は岡部拓也と同じ地元の出身で小さな学校で育ってきました。仲良くしてください。」


 まさかの彼女から同じ地元ということをカミングアウトされたのだ。ただ僕は一つ違和感があった。それは昨日の『はじめまして。』という言葉だ。なぜはじめましてって言ったかが僕にはわからなかったし、恐らく横で聞いていた紗季にもわからなかったことだろう。もちろん紗季も「同じ地元だったんだね。」と聞いてきた。


 無事終わったと思えた自己紹介だったが終わって休憩時間の時に里穂がこっちへと向かってきた。既に里穂は二日目にしてクラスの中心的な存在だったし、その一挙手一投足が注目の的だった。


 「拓、昨日はごめんね。はじめましてって声掛けて。私も気付いていないわけじゃなかったの。でもなんか変わったって言うかなんと言うか...。まぁそんなことはいいわ。また三年間一緒だね。」

 「里穂...。僕のことなんて忘れたかと思ってたよ。正直影が薄かったからしょうがないかな~くらいしか思ってないから...。全然いいよ。」

 「拓は相変わらず優しいな~。」

 「え、今なんて...。」

 「ううん。何でもない。また後でね。」


 そう言い残すと里穂は自分の席の方へ帰っていき、一人で何かを考えているような感じだった。すると今度は横から紗季が話しかけてきた。


 「まさか里穂ちゃんと同じ地元だったなんてびっくりしちゃったよ。昨日の感じだと全然関係ない人かな、くらいにしか感じれなかったからね。」

 「まあ小さな町の学校の同級生だからね...。」

 「それでも『拓』って呼ばれてたんだね。なんか一人リードしてるような感じ...。」

 「地元ではみんなそう呼んでたからね...。そういえば思ったんだけどこのクラスって男、僕だけ...だったよね...?」

 「言われてみればそうだったね...。でもいいんじゃない?それはそれで楽しそうじゃん!」

 「そ、そうだね...。」


 まさかの僕のクラスは男が他にいなかったのだ。なら昨日教室に入ってきた男子生徒は何だったんだろうか。でも自己紹介したのが全員だったら僕以外はいないことになる。ますます疑問が増えた学校生活の始まりだが、それと同時に僕の三年間のほぼハーレム生活が始まったのっだった。

 閲覧いただきありがとうございます。この作品は不定期の更新となっております。じゃんじゃん投稿することもあれば全然しない時もありますがご了承ください。ブックマークして更新を待っていていただけると嬉しいです。

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 また、私は『転生魔術師の覇道譚』の方の連載もさせていただいております。そちらの方もよかったらチェックしてください。

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