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第2話~初めての学校~

 そうして迎えた今日、僕にとっての一番大切な日。「入学式」だ。人生を変えるべくして入った学校で新たな学生生活を迎える。気合いと希望を胸にこの美郷学園の立派な校門をくぐった。

 今までしていた眼鏡をはずしコンタクトレンズへと変え、髪の毛は今までの固まった人生を捨て去るかのようにバッサリと切り清潔感のある短髪に、名門校に相応しいような純白で高貴な制服を着て、普通の男子高校生として歩みを進めていた。

 学校に入るとまず目に見えたのはクラス発表用の看板だった。自分の名前を探しているとあることに気が付いた。それは圧倒的に男子の割合が少ないことだ。名前だけでは正直判断できないのがこの時代の名前だが何となくは分かる。


 「僕の名前は...。あ、あった。7組...かぁ...。」

 僕のクラスは1年7組に決まった。かなり早くついてしまった僕は周りにもあまり人がいなかったため、少しクラス名簿を見ることにした。


 「白河...里穂...。同じクラスなのか...。」

 僕はまさかの人と同じクラスになってしまった。白河里穂は僕にとっては高嶺の花の様な存在であり、同じ中学校のマドンナだ。彼女がいることで僕にとってはいくつか壁がある。それは彼女は三年間も同じクラス、というかド田舎の学校だったから1クラスしかなかったのだ。だから彼女は僕がどんな人物か、どんな存在かを熟知しているはずだ。正直、僕にとっては出鼻を挫かれたような、期待でいっぱいだった心に少し穴の開いたような感覚がした。冴えない陰キャオタクだった僕にとっては正直、一番の敵の様な存在だ。


 名簿を見て少し気が落ちていて、重い足取りで教室へと足を運んだ。教室についたが中には誰もいない。一番乗りだった。黒板に貼ってある座席表を見ながら僕は自分の席を探した。僕の出席番号は6番で一番左の窓際の一番後ろだった。誰もいない教室の一番端の席で一人、他のクラスメイトが入ってくるのを持ってきたライトノベルを読みながら待っている。現在の時刻は7時58分。まだ入学式の開始時刻までは一時間ほどある。


 僕の席から窓の外を覗くとちょうどクラス発表用の看板が見える。しばらくしてだんだん人が入っていき、少しずつ賑わっていき、新生活、新入生という雰囲気を僕はまだ一人の教室で噛み締めていた。こんなに気合いを入れて新たな出会いに臨むのは初めてのことだし、これからの人生でもそうそうあるものではない。そして僕はライトノベルを読んで少し緩んだ顔を引き締めて、僕なりにクールを気取りながら窓の外を見つめていた。


 時刻も8時25分を迎えると徐々に教室の中に人が入ってきた。スポーティーな王子様系の女子にギャルの様な見た目の女子、眼鏡で賢そうな男子に天使のような清楚系女子などかなり個性的な生徒が教室に入ってきて、次々と席についていく。


 僕はめちゃくちゃドキドキしていた。入ってくる生徒はみんな綺麗で可愛いし、男子も明らかに自分よりもスペックが高そうな生徒ばかりだったからだ。正直、僕は自分に自信なんてなかったし、性格的にも誰かの上に立つとか、自分を主張するだとかははっきり言って苦手である。そもそも得意だったら陰キャなんてやってなかったと思う。少し心折れそうになっていたし、怯んでもいた。決意したのにその思いから逃げ出そうとする心の中の悪魔もいた。


 僕は緊張からか下を向いてテーブルを覗き込んでいた。そんな時に僕に話しかけてきた女子がいた。


 「はじめまして、隣の席ですね!今日からよろしくお願いします!」

 僕は可愛らしい声がしたので顔を上げてその声のする方へと視線を向けた。するとそこにいたのは整った顔立ちの金髪美女だった。きっちりとした服の着こなしと言葉遣いからどこか育ちの良さを僕は感じた。そして目に入ってくるのは豊満な胸だ。どうしても視界に入ってくるものを何とか僕は拒絶して顔を見ることに集中した。


 「は、は、はじめまして...。こちらこそよろしく...お願いします...。」

 僕は急に美少女を前にしたことと、まともに人と会話をしてこなかったのでまた陰キャ全開の返事をしてしまった。緊張とか決意とかそれ以前の問題でシンプルに人と関わってこなかったことが仇となっていた。


 「フフフッ。緊張しているのですね。私の名前は加賀紗季(かがさき)と申します。あなたのお名前は?」

 「ぼ、僕の名前は岡部拓也...。15歳です...。」

 「15歳って私たち一年生だからそれくらいのことは分かっているわよ。拓也さんは面白い人なんですね!」


 美少女の名は加賀紗季だった。見た目から言葉遣いから、何から何までどこをとっても100点満点に見える彼女は微笑みながら僕に話しかけた。少し僕も緊張が解けてきて今まで合わせられなかった目線を合わせた。


 「面白い人だなんてそんな...。僕は何でもないただの普通の人ですよ...。ところで加賀さんは...。」

 「加賀さんじゃなくて『紗季』って呼んでくれませんか?そっちの方が馴染みやすいですし、そっちの方が嬉しいんです。」

 「さ、紗季、さん...。あの...紗季さんは...その...。友達とか...興味ないですか...?」

 「紗季さん...まあいっか。友達ですか?もちろん興味ありますよ。それがどうかしましたか?」

 「あの...よかったらなんですけど、僕と...その、友達になってもらったり...しないですか...?本当によかったらでいいんです。ただこの学校に友達いなくて...。」

 「いいですよ、なりましょう。友達に。私も少ししか知ってる人いませんですし、それに友達が大いに越したことはないですからね。友達、よろしくお願いします、拓也さん!」

 「え、えぇ...。こちらこそ...よろしくお願いします...。」


 こうして僕はあっさり新しい学校で友達第一号をつくった。緊張とか色々相まって上手く会話はできなかったけど、自分から会話を進めようとしただけで過去の自分よりかは成長した。そして僕は紗季に心の中で感謝していた。彼女がいなければしばらくの高校生活はきっとスタートダッシュを切れなかっただけに苦しいものになっていたかもしれない。そしてまた輪を広げるタイミングを見失い、陰キャとして三年間を過ごすしかなかったからだ。



 私の名前は加賀紗季。私は名家の育ちで父は加賀財閥の社長だ。そんな家庭で育った私だが、正直家庭環境に恵まれていたわけではない。両親は跡継ぎになる男兄弟達にばかりに夢中で、私には見向きもしてくれなかった。早くから家事を教え込まれ、大企業の社長御曹司の娘に出して事業拡大しようとする親の政略のために生まれた道具の様な扱いを受けてきた。そんな家庭環境を提供する両親に盾を突いた。そして私は私の自由を求めたら、この名門美郷学園に入学することが条件だと言われ、見事合格、入学となったのだ。


 そんな私の入学式の日、自由を手にした新生活にウキウキしながら教室に入って、黒板に貼ってある座席表を見た。窓際二列目の一番後ろ。既に左隣には男の子が下を向いて座っていた。私はどうしても人のことは放っておけないタイプの人間で、どんな人とでも一度は話して相手のことを理解したい。近づいてみると別に眠っているわけではなさそうだし話しかけても大丈夫そうかなと私は思った。


 「はじめまして、隣の席ですね!今日からよろしくお願いします!」

 明るく話しかけられたかな、変に意識してないかな、第一印象が一番大事だから、など話しかけた後にいそんなことを思ったけれど、その男の子は暫く反応がなかったので少し焦っていた。何か気に障るようなことしたかどうか、少し不安だった。そして少し経ってから彼の頭と目線が動いたのを確認できて少し安心した。


 「フフフッ。緊張しているのですね。私の名前は加賀紗季(かがさき)と申します。あなたのお名前は?」

 「ぼ、僕の名前は岡部拓也...。15歳です...。」

 「15歳って私たち一年生だからそれくらいのことは分かっているわよ。拓也さんは面白い人なんですね!」


 私はついつい『拓也さん』って呼んでしまった。いきなり馴れ馴れしくし過ぎたか、距離の詰め方は間違えてないか、とかなり色々な感情が動いていた。私は今まで初対面の相手に自分から話しかけるなんてしてこなかったから最初がどのような会話から話せばいいのか、正直分からなかった。特に大きな共通点があるわけでもない、ましてや趣味や特技なんて自己紹介もまともにしてないのに分かるわけがないのだ。「面白い人なんて言っちゃったし、機嫌を損ねてなければいいな。」みたいなどちらかというとネガティブな感情の方が強かった。


 すると少しした沈黙の後に彼が私に目を合わせてきてくれた。その目は美しく、パッチリとした大きな目をしており、私は彼の少し緊張しているその姿もあったせいか、少しドキっとしていた。そしてさらに彼から友達になってほしいと言ってきたのだ。これは私にとっても大チャンス。気づいたら二つ返事で承認していた。ただ、私のこの胸の中にある何とも言えない感情がすごく気になってしまって会話はそこで終わった。席に座って彼の方を横目でちらっと見ると、少し頬が緩んだ彼の姿があり、私は少し微笑ましくあった。

 閲覧いただきありがとうございます。この作品は不定期の更新となっております。じゃんじゃん投稿することもあれば全然しない時もありますがご了承ください。ブックマークして更新を待っていていただけると嬉しいです。

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 また、私は『転生魔術師の覇道譚』の方の連載もさせていただいております。そちらの方もよかったらチェックしてください。

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