羅生門に続きがあったら
初投稿でございます。
友達に「学校の授業で『羅生門』の続きを想像して書かいたんだけど、一緒にやらね?」と言われたので、その授業を受けていなかった僕が、去年、点数にならないのに書いたものです。ボランティアみたいなもんですね。
初投稿が二次創作とはこれ如何に。
下人の行方は、誰も知らない。
例えば、街行く盗人に彼の事を訊ねてみたとしよう。盗人は、「金を置いて行け。さすれば教えてやる」と云う。
持ち合わせが無いからと断ると、眉間に皺を寄せ、鬼とも違わぬ、だが少しばかり痩けた形相で何かを叫び、足早に姿を消すだろう。京都とは、今やそう云う街なのだ。
実際、殆の民衆に下人の事を訊いても、誰も彼もが同じように「そんな奴は知らん」と、耳をも貸さずに立ち去るだけであろう。
そうは云うが、そんな中でも行方を知っている者がただ独りだけ在る。それは下人だ。自分の居場所が判らないなどとは、何とも可笑しな話しである。
◇◇◇
街の外れ、辺鄙な山奥に、或盗人ら五人が棲んでいる根城がある。根城と云っても洞穴の中に焚火を起こして暖を取っているだけの簡素な物なのだが、生きて行けるのならば大した問題では無い。
此の日は朝から総出で山を降って、盗みを働く手筈だ。順調とはいかないまでも盗みを成功させ、盗人らは帰路へ就く。
根城へ帰ってからは酒を呑み交わす。薪が焼かれて足掻いているような、ばちばちっと云う焚火の声と、談笑していると時折交じる咳の音が洞穴の中に響いていた。何の変哲もない、いつも通りの情景だ。
所謂「下人」と呼ばれていた一人の仲間から感染ったのだろうか。一月程前から仲間の盗人が咳をするようになっていたのだ。
そんな暮らしを続けて、幾度となく盗みを働いた。
或日、「下人」が仲間の異様な声で目を覚ますと、血痰を吐いて倒れている一人の仲間と、それを目の当たりにして慌てふためく、他三人の姿が在った。
それを見るなり、「己が街へ降りて来よう。己が戻るまで、其奴を看ておれ」と、此の中で一番体力が有る「下人」が名乗りを上げ、一目散に街へ駆けて行った。
慣れているとは云えども、疾走っているのは山路だ。「下人」は土に塗れた拳で、その湿った額を拭いながら都への路を踏み締める。
陽が沈みだすかという頃、京都に着いた「下人」は息を切らせながら狂った犬が如く街中を駆け廻り、血眼になりながら薬師を探していた。
やっとの思いで見つけた薬師は、「しっかりと代金を払うのならば薬は出してやろう」と云うが、薬を買える程の大金、持ち合わせてなど無い。何分、つい先頃、酒を買った時に使い果たしてしまったのだ。
「下人」は一縷の望みに賭けて頼み込んだが、「わしも生きる為なのだ」と、断られてしまった。
思い悩んだ末に、昔出会った老婆の事を思い出し、下人は羅生門へと奔り出した。
辺りを鴉が飛んでいる門の下へ着き、梯子へ手を掛ける。物音など気にする余裕も無い「下人」は、づかづかと音を響かせながら一番上の段まで上りつめた。
「下人」が、死骸から放たれる臭気に堪えながら、金に為る物は無いかと一心不乱に死骸を漁っていると、背後から力の無い声が聞こえてくる。
振り返ってみると、「下人」よりも半周り程度若い男が立っている。
男は「こちらも必死なのだ。恨むでないぞ」と、ぶつぶつ云いながら、「下人」へと襲い掛かって来た。
「下人」は歯向かい、掴み合いになるも、力の差を覆す事は出来ず、いとも容易く死骸の上へと押し倒されてしまった。男は、表情が死んだような顔で「下人」の持ち物を漁った後、覚束ない足取りで、梯子の口まで歩き、降って行った。
「下人」は、其れを後目に起き上がろうとするが、躰に力が入らない。
更には、赤ん坊のように首すら据わっていない。何度も試すが、やはり動かない。
そうこうしている間に、死人の肉を啄ばんでいた鴉が、徐に「下人」の方へと歩みを進める。
「下人」は躰を動かすのを諦め、やっとの思いで、緩りと暗く為る瞳の焦点を、馴れ親しんだ山へと合わせた。
重く閉じ行く目蓋の隙間には、枯山から翔び立つ鴉が四つ、映っていた。