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始まりのメモライズ  作者: 蓮見たくま
第3章 ティアナ〜居場所〜
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第18話 ナイトメア②


「⋯⋯ここ、は」

「よぉ、目が覚めたか」


 目を覚まし、現実と夢の区別もつかず困惑するティアナに対し、リオティスはあくまで冷静だった。


「体、大丈夫か? 一応確認するが、ここは迷宮の〝ロスト〟。バルカン達とは逸れ、今は俺とお前の二人きり。〝ロスト〟に入って間もなく魔獣に遭遇。そいつの能力で眠らされていた」

「⋯⋯大丈夫。わかってるわ」


 頭痛と眩暈に耐えながらも、ティアナは状況を整理していく。


 先ほどまで自分が見せられていた悪夢は、あの蛇型の魔獣の能力。

 噛みつかれた際に、流し込まれた毒によって精神を揺さぶられた結果だろう。


 上半身を起き上がらせると、薄くボロボロな布切れがかけられていたことに気が付いた。


 見渡せば、寝ていた場所にも布が引かれており、場所自体も最初に魔獣に襲われた森林の中ではなく、少し開けた湖の傍に移動している。


「ほら、これでも飲め」

「え⋯⋯」


 頭を正常に回していたところに、リオティスが木製のコップを手渡した。


「そこの湖からとった水だ。安心しろ、ちゃんと毒見は済ませてある」

「⋯⋯⋯⋯」

「どうかしたか?」


 受け取った水を眺めるばかりで動かないティアナに対し、リオティスは心配するように声をかける。


 普段のリオティスからは考えられないような優しさを含んだ声。

 さらには現状を見るに、彼が自分を担いで移動し、魔獣が少ないであろうこの場所でずっと見守っていたのは確かだ。


 だからこそ、ティアナに疑問が生まれる。

 何故突然リオティスがここまで優しくしてくれるのか。気を遣ってくれるのか。


 ひとつだけ、ティアナには心当たりがあった。


「⋯⋯私が魔獣に眠らされていた時、夢を見ていたの。悪夢のような、現実のような。どっちにしろ、私にとっては地獄のような体験だった。でも、最後にその地獄から私を助けてくれたのは貴方だった。最低で屑な貴方に私は助けられた。それも夢だったら良かったのだけど、違うのよね? 馬鹿げた話かもしれないけど、あれは確かに貴方自身だった。そんな気がしてならないのよ。⋯⋯どうなの?」


 手に持ったコップを見つめたまま、ティアナは尋ねた。


 有り得ない話だ。

 馬鹿馬鹿しくて口にも出せないような妄想。


 だが、ティアナに確信があった。

 夢の中に現れたリオティスが、現実世界の彼自身であったとーー。


 下を向いたまま答えを待つティアナに、リオティスは少しだけ考えた後に言った。


「あぁ、そうだ。俺がお前の精神に侵入して助けた。お前が見たのは俺そのものだと思っていい」

「どうやって?」

「このメモリーの能力だ。これは人工のメモリーじゃなく、天然のメモリーだ。多分その意味はお前にもわかるだろうが、つまりはこのメモリーには特殊な能力が付与されてる」


 リオティスは短剣を引き抜くと、ティアナに見せる。


 一見、どこにでもあるような刃の短い短剣。

 だが、それがただの短剣ではないことはティアナにも理解出来た。


 この世界には二種類のメモリーが存在する。

 記憶者(メモライズ)のように、突然能力が武器に付与される天然のメモリーと、メモライトによって人の手で人為的に作られたメモリーの二つだ。


 前者は数も少なく、さらには使い手も絞られる。

 天然のメモリーは選ばれた者以外が触れると拒絶反応が起き、激しい痛みが起きるのだ。


 そのため扱うことの出来る人間は僅かだが、その分力は絶大で記憶者(メモライズ)同様、特殊な能力が秘められている。


 後者はメモライトがあればいくらでも増産出来るため数も多く、使い手も天然の物に比べて人を選ばず、多くの人間が使用することが出来る。


 だが、メモリーに付与された能力は身体能力を向上させる、といったような程度で、天然のメモリー使いや記憶者(メモライズ)にはまるで歯が立たない。


 つまり、同じメモリー使いでも、使用するメモリーの質によって力量の差は分かれるのだ。


 ティアナは、自身の腰に差した真っ白な宝剣にそっと手で触れた。


「⋯⋯じゃあその能力で私を助けたのね」


 助けてもらったという事実を受け止めても尚、ティアナの顔色は晴れない。


 その様子を見て、リオティスも彼女が危惧している可能性に気が付いた。


「正直に言うよ。俺はお前を助ける時に精神に触れた。お前の見ていた夢⋯⋯つまり過去を見た」

「っ⋯⋯」


 ビクリ、とティアナの身体が震える。


「見た、の?」

「あぁ、見た。わざとじゃねェけど、悪いとは思ってる」


 謝罪するリオティスを他所に、ティアナはコップを落として立ち上がった。


「全部、見たの? 私の過去。私が何をしたのか。何をされてきたのか⋯⋯!」

「断片的だが大体な」

「じゃあわかるでしょう!? 私はこの国で最も偉大な人を殺した! そのくせに国宝のメモリーは触れるだけで鞘から一度だって抜くことが出来なかった。周りの人を落胆させ、恨まれて! 最後にはお父様に家を追い出される始末!! 貴方だって優しくするふりをして、心の奥底では笑っているんでしょう!?」

「別に笑ってねェよ。そもそも母親が死んだのはどう考えてもお前のせいじゃない。気負いすぎだ」


 興奮するティアナに、リオティスは落ち着かせるように言う。


 実際、ティアナの過去を見たリオティスからしてみれば、アテナの死は仕方がないこと。国からしてみれば損害は確かに大きかっただろうが、ティアナひとりに責任を負わせるのは間違いだ。


 リオティスは本心でそう考えていたが、トラウマを見させられた影響か、ティアナは明らかに正常ではなく、乱れた心のままに叫ぶ。


「何も知らないくせに適当なことを言わないでよ!! ちょっと過去を覗き見ただけで、私のことを知った気にならないでよ! 安い同情なんてしないでよ!! 貴方にわかる? 無能だと呼ばれて生きる日々が。周りから冷めた視線を注がれ、陰口を言われる苦しみが。度の超えた暴力を振るわれる痛みが。大切な人を死なせてしまった罪が!! わかるわけがない! 貴方なんかに、貴方なんかに私の気持ちがわかるわけないのよ!!」


 膨れ上がった感情をぶつけたティアナは、立ち上がった勢いのまま、荷物をまとめて歩き去ってしまった。


 危険な迷宮内で、感情を抑えることが出来ないままの行動は命に関わる。


 リオティスもすぐ様に追かけようと準備をするが、ティアナの最後の言葉が強く胸に引っ掛かった。


「⋯⋯バカか俺は。もう少し言葉を選ぶべきだった」


 後悔するも、ティアナの過去や心情を知って、少しだけ昔のことを思い出してしまう。


 無能だと言われ、嫌がらせや暴力を振るわれ、大切な人を殺して。

 そんな自身の過去と比べて、どうしてもティアナのことが他人だとは思えなかった。


「全く、どこの兄妹も仲良く出来ないもんなのか」


 ひとり呟くリオティスは荷物をリュックに入れて背負うと、ティアナの後を追いかけるために走り出した。


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