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始まりのメモライズ  作者: 蓮見たくま
第3章 ティアナ〜居場所〜
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第15話 大好きな①


 暗闇の中に、リオティスは立っていた。


 辺り一面真っ暗で、立っているのにも関わらず地面も見えない。まるで浮いているかのようだ。


 そんな暗闇の中に、二人の少女が現れる。

 光も無い黒色に、はっきりとした姿が映し出されていた。


 青色と赤色の髪を揺らす二人。

 彼女たちを、リオティスは知っていた。


「⋯⋯リラ、リコル」


 悲しげな声がリオティスから漏れる。


 大切だった人。守りたかった人。大好きだった人。


 何を捨ててでも会いたかったリラとリコルに再開したというのに、リオティスは胸を締め付ける恐怖と悲しみから、無意識に一歩後ずさりをした。


 何故ならば、目の前の彼女たちは偽物だから。

 自分が生み出した偽りの存在だから。


 それがわかっていながらも、リオティスは何度も何度もこの幻影に苦しめられていた。


 だからこそわかる。

 次に目の前の少女たちが何をするのかがーー。


「⋯⋯君のせいだよリオティス」


 リラが口を開く。


「君のせいで私は死んだんだよ? 弱い君が私を見殺しにした。そうだよね。だってきみにとって私はどうでもいいんだよね? 死んでほしかったんだよね?」

「ち、違う。俺はお前が好きで⋯⋯」

「じゃあ何で殺したの? 大切なら何で守ってくれなかったの? ねぇ!!」


 リラが前に出る。

 一歩一歩、リオティスを追い詰めていく。


「そもそも私は君が大嫌いだったの。力が無くって、そのくせ無駄に頑張る素振りだけ見せつけて。ずっと目障りだった。死んでほしかった。そうだよ、君が死ねばよかったんだ。そうすれば私は幸せに生きれた。彼女だって死ななかった」


 続けて今度はリコルが口を開く。


「そうですよ。リオティスさんが居なければ私は死ななかった。変に希望だけ見せて、突き落として、殺す。それがリオティスさんのやり方なんですよね。あの時どれだけ私があなたを恨んだか、殺してやりたかったか! 私は、ずっとずっと大嫌いだったんですよ!!」

「や、やめてくれ。もう、こっちに来ないでくれ!」


 突き放すようにリオティスは腕を払う。

 空を切るはずの腕が、ドンっ、と何かに当たった。


「リラ、リコル⋯⋯?」


 リオティスの前に倒れる二人。

 彼女たちは辺りに血溜まりを作り、ピクリとも動かない。


「ち、違うんだ! これは、俺じゃ、わざとじゃ⋯⋯!!」

「嘘、つき」

「助けるって言ったのに」

「守るって言ったのに」


 混乱するリオティスにリラとリコルの声が襲い掛かる。


 二人の声は段々と大きくなり、まるでリオティスの脳に直接流れ込んでいるようだ。


「君が殺したんだ」

「あなたが殺したんです」

「私はただ生きたかっただけなのに」

「私は希望なんてみたくもなかったのに」

「騙して、裏切って」

「突き放して、傷つけて」


 脳が破裂してしまうかと思えるほどの声。

 たまらずにしゃがんで耳を塞ぐリオティスの足元に、大量の死体が現れた。


 リラとリコル。

 二人の傷だらけで、醜く、血に濡れた死体が無限に地面を覆い隠していく。


「う、ぅ⋯⋯ああっ!?」


 余りにも惨たらしい景色に、リオティスは立ち上がり目を背ける。

 だが、どこを見ても、目を瞑っても、全く変わらない光景が焼き付いて離れない。


「「全てお前のせいだ」」


 再び脳を貫く呪いの声。

 その声を発したリラとリコルの死体が一斉に起き上がり、真っ赤な手をリオティスに伸ばす。


 足を、腕を、胸を、肩を、首を、顔をーー。

 無数の腕がリオティスの全身を掴み、締め付けていく。


 想像を絶する痛みと、散々二人からぶつけられた言葉に、もうリオティスは限界だった。


(俺の、せいだ。俺が悪いんだ。恨まれても、呪われても、仕方ない。俺が弱いせいで二人は死んだ。何も守れなかった。今も、昔も、これからも、俺は何も守れず殺していく。なら、もういっそ、ここで死ねば。もう、誰も傷つかない。別にいいだろ。生きる意味なんて何かあったんだっけ。どうせ、俺のことを好きでいる奴なんて誰もーー)


 ドス黒い負の感情に押しつぶされ、今までの想いも決意も忘れ、リオティスは生きる気力の全てを失った。


 その刹那、手で覆われて闇に落ちそうになった景色の隙間から、鋭い光が差した。


「何寝ぼけてるの? リオティス。君のことが大好きなハチャメチャに可愛い女の子が、ここにいるでしょ?」

「あっ! ずるいですよ! リオティスさん、ここにも! ここにもリオティスさんのことが大大大好きな私がいますよ!! だから⋯⋯」


 光に貫かれ、リオティスを苦しめていた闇が消える。


 拘束から解かれたリオティスの前には、二つの手が伸ばされていた。


「早く起き上がって」

「早く起き上がってください」


「「私のヒーロー!」」


 声に導かれるまま、リオティスは二人の手を取ってーー。


◇◇◇◇


 青色の世界に、リオティスは立っていた。


 地面には名前の知らない青い花が咲き乱れ、空は雲一つない晴天だ。


 長閑で、静かで、落ち着く。

 リオティスがこの空間に来るのは、二度目だった。


「⋯⋯どうして、またここに」

「そりゃあ、私たちが呼んだからに決まってるでしょ」


 呆然とするリオティスの横から、聞き覚えのある声がした。


 青い髪を揺らす可愛らしい少女。

 それは大好きなリラの姿で、リオティスが作り出した幻影だ。


「⋯⋯また、俺を苦しめるのか」

「ちょっとちょっと~、いつ私が君を苦しめたっていうの? あっ、もしかして愛が重い的な? だってそれは仕方ないじゃん! 君のこと大好きすぎるもん!」


 苦しみからつい零した言葉に、リラが照れるように反応する。


 その反応や様子が余りにも昔のリラにそっくりで、リオティスは驚く。


「リラ⋯⋯なのか?」

「ふふん、そうだよ! 君のだ~い好きなリラちゃんでーす!」


 自信満々に謎のポーズを取るリラ。

 馬鹿らしいような、頭が悪いような、そんな底なしの明るさは確かにリラそのものだ。


 だが、それが有りえないことをリオティスは知っていた。


「嘘だ。リラはとっくの昔に死んだ。お前は偽物だ」

「うわ、酷い。恋する乙女を偽物呼ばわりって」

「だってそうだろ! リラは死んだんだ!! もうこれ以上俺を騙すのは止めてくれ!」


 拒絶するようにリオティスは叫ぶ。

 もうこれ以上、傷つかないように目の前の少女の存在を拒む。


 すると、リラはリオティスにそっと近寄ると、優しく抱きしめた。


 柔らかい感触。温もり。匂い。

 次々にリオティスを包むリラの優しさは、脳で理解していても、どうしても偽物とは思えなかった。思いたくはなかった。


「大丈夫だよ、リオティス。もう大丈夫」

「どうして⋯⋯、やめてくれよ。これ以上は、本当に。信じたくなるだろ⋯⋯」

「うん、信じて。私は本当に君の知るリラ。絶対に、君を傷つけない」


 頭を撫でながら、リラが優しく囁く。

 

「大好きだよ、リオティス。ずっとずっと、自分の口で伝えたかった」

「っ⋯⋯あぁ、俺もだよ。リラ」


 もう何が正解かわからなかった。

 今までの世界が夢で、この世界が現実なのか。やはりここが夢で、全ては自分を騙すための嘘なのか。


 わからない。

 だが、それでも今こうして抱きしめるリラは本物だ。それだけは確かだ。リオティスはそう思えずにはいられなかった。


 気が付くと、リオティスは泣いていた。

 大好きな、大好きな少女の胸の中で、子供のように泣いていた。


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