エピローグ 親友
私はずっとひとりで生きてきた。
家族も友達も全てを失ってしまい、もう二度と誰かと共に生きることが出来るなんて思ってもみなかった。
けれど、今の私はもうひとりじゃない。
目を閉じれば大好きな少女の笑顔が浮かび、耳を澄ませば賑やかな声が聞こえてくる。
そのたびに私の心は温かくなって、安心することが出来た。これが生きるということなのだろう。
私はその喜びを嚙みしめながら、固いベッドに横たわっていた。
リオティスから貰った大金を握りしめ、貧民街から抜け出した私は薄汚れた安い宿を借りた。
こんな身なりだから、お金があっても大層な宿は借りれないだろう。
だから手始めに一般人ならまず泊まらないであろう、安くおんぼろな宿に目を付けた。
そこは予想通り見すぼらしかったが、貧民街での暮らしと比べれば天国のように思えた。
私はベッドに仰向けに転がりながら、右手の紋章を見つめた。
禍々しい程、醜く黒い紋章。
以前はそんな記憶者の紋章を見るだけで吐き気が込み上げてきたが、今は見ていると心が安らいだ。自分はひとりじゃないのだと、そう思えた。
「⋯⋯記憶者になるだけでこうも景色が変わるなんてな。いや、きっと私が受け継いだのがリコルだったからなんだろうけど。それでも、今は本当に嬉しいよ。こんな生活が出来ることよりも、大好きな人と心が繋がっていることが、本当に嬉しい」
天井を見上げながら呟く私の胸は、くすぐったい刺激とじんわりと広がる幸せでいっぱいだった。
大金が手に入ったらリコルとずっと一緒に居たい。
そう願った私の夢が叶ったような気がした。
「⋯⋯不思議だよな。リコルが死んだことは本当に悲しいのに、一緒に居られることの嬉しさもあるんだ。こんなにもこの世界を恨んでいたのにさ」
私が語りかけても、頭の中にリコルの声はしない。
当然だ。
だってもう彼女は死んだんだから。
それでもリコルが私を選んでくれて、私を親友だと呼んでくれて嬉しかった。その気持ちは間違いない。
こんな生活が後一年は続く。
きっとあっというまに過ぎていくのだろう。
そして一年後、私たちの物語が始まるんだ。
多くの人を助けて、感謝されて、沢山の出会いをして。そんな夢物語のような出来事ばかりでは決してないとも思うが、それが私たちの夢だ。
その夢が始まるまで一年。
当然もう入るギルドも決まっていた。
「一年で〈六星の集い〉にするって、とんだ無茶言いやがって。けど何故だろうね。それを聞いて私はすんなりと受け止められたんだ。あの人なら本当に実現しちゃうんじゃないかって」
私が思う夢物語よりも、もっと困難で険しい道のりを彼は思い描いていた。なのにその表情が眩しくって、つい私は見惚れてしまった。
その時に感じた気持ちが今も渦巻いていて、何だか胸が苦しいような心地いいような、そんなよくわからないもやもやで満たされていた。
それが何かはやはりわからない。わからないけど、彼のことを考えると心臓がドキドキしてしまうのだ。
一年後、もしもその時また彼に会ったなら、この気持ちが何なのかもわかるような気がする。
だから今はこれでいい。
リコルと共に過ごす時間を大切にしたいから。
私は首に着けたペンダントを握ると、静かに目を閉じた。
ごめんね。
そしてありがとう。
そんな気持ちをペンダントに込めて、私はリコルの姿を思い浮かべた。
たったひとりの親友の姿。
思い浮かんだその表情は楽しそうに笑っていた。
ついに第二章完結。第三章もよろしくお願い致します!
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