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始まりのメモライズ  作者: 蓮見たくま
第2章 アンジュ~始まり~
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第12話 ボーイズトーク


 街中に突如として現れた魔獣。

 そんな一大事件を終えて、リオティスたちは〈月華の兎(ルナミラージ)〉のギルドへと戻ってきていた。


 ボロボロになったフィトを見て皆が驚いていたが、どうやら騒ぎを聞きつけある程度の状況は理解していたようで、命があるだけでも良かったと胸を撫でおろしていた。


 その後、バルカンはリオティスたちから詳しい話を聞いた後で、何やら外へ飛び出していったが、ロメリアを含め他の団員は残っているように指示された。


 結局、夜になってもバルカンは帰ってこなかったが、リオティスにとっては気にするほどの余裕もなく、今は男子部屋の方で布団の上に寝そべりながら、今日一日の疲れを取ることに専念している。


 煩い仲間に振り回され、貧民街の少女を助け、魔獣と戦った。

 思い出すだけでもどれほど今日という一日が忙しかったことか。既にリオティスは心も体も疲れ切っており、一刻も早く眠りにつきたかった。だがーー、


「オイ、レイク。頼むからそこ変わってくれよ。俺リオティスの横で寝たいんだけど」

「ダメッスよ! リオっちは疲れてるんスから邪魔しちゃダメッス!」

「いやいや邪魔なんてしないって。俺はただ可愛いリオティスの寝顔でも見つめながら優雅なひと時を送りたいだけで⋯⋯」

「それがダメなんスよ!!」


 などとリオティスの横から煩い騒ぎ声が聞こえてくる。


 〈月華の兎(ルナミラージ)〉で寝泊まりをすることとなったとはいえ、あれだけオンボロで小さなギルドで使える部屋はそういくつもない。そのためリオティスを含めた男性陣はひとつの部屋で寝ることになったのだ。


 歩けばギシギシと床が軋む、三人がギリギリ寝れる程のスペースしかない部屋。ただでさえ寝苦しいというのにも関わらず、リオティスの真横で同じく布団に寝転がっているレイクとアルスが騒がしく、とてもじゃないが眠れなかった。


「オイ、頼むから静かにしてくれよ。俺もう寝たいんだが」

「そう言うなよ。まだ夜は始まったばかりだぜ。と、いうわけで第一回〈月華の兎(ルナミラージ)〉ボーイズトークの開催だ!」


 アルスはそう言って目を輝かせるが、リオティスからしてみればただただ鬱陶しいだけだった。


 今すぐにでも耳を塞ぎ眠りたかったが、それよりも早くアルスが続けた。


「そんじゃまずは〈月華の兎(ルナミラージ)〉で誰が一番可愛いかについて語ろうぜ。まずはやっぱティアナちゃんだよなー。あんな美人見たことないんだけど。性格はちょいキツめだけど、それもまたいいよなァ」

「確かにティアナっちは美人ッスよね。リオっちはどう思うッスか?」

「そうだなー」


 意外に何故か乗り気なレイク。

 そんな彼に向かってリオティスは棒読みで返事をするが、それを無視して再び会話が始まる。


「そんで次はタロットちゃんよ! あの白銀の髪も美しいが、なんといっても胸! 巨乳! まさに男のロマンが詰まってるよな。⋯⋯性格はあれだけど」

「獣人ってのもいいッスよね。俺初めて見たッスよ! ⋯⋯性格もまぁ面白いッスよね! そうッスよねリオっち?」

「そうだなー」

「フィトちゃんやルリちゃんみたいな小柄な女の子も捨てがたいよな。小動物っていうか。優しく抱きしめたくなるんだよな」

「それわかるッス。あの二人見てたらこう世話したくなるんスよね。ねっ、リオっち?」

「そうだなー」

「けどリコルちゃんもいいよな。初々しいというか、恥じらう姿がめちゃんこ可愛いし、それでいて真面目なとこもポイント高いよな。健気な感じっていうか」

「確かに。けどリコルっちは相当強いらしいッスよ。毒の能力を使うとか。そうッスよね、リオっち?」

「そうだなー」

「オイ、リオティス。お前適当に返事してるだろ?」


 バレた。

 リオティスは面倒くさくなり布団に包まって追及を逃れようとするが、アルスによって剝がされてしまった。


「逃げんなよー。お前みたいなクールぶってる奴が一番むっつりなんだぜ?」

「誰がむっつりだ。つうか敬語ぐらい使えよ。言っとくが俺の方が年上だからな」

「え? リオっちって何歳なんスか?」

「二十歳だ」

「はぁ!? マジ、嘘だろ?」


 アルスとレイクが訝しむようにしてリオティスを見る。


 そんな二人に対して、リオティスは冷静に懐からとあるカードを取り出した。それは〈月華の兎(ルナミラージ)〉に入団する際にロメリアにも提示した身分証明書だった。


 通称ギルドカード。

 これは全ての人間が持つことを義務付けられている物で、自身の魔力から作られる世界にひとつだけのカードだ。

 魔力からその人間の情報を得ることで、性別や年齢までもカードには嘘偽りなく記載され、カードに自身の魔力を流し込むことで最新の情報が自動的に更新もされる。


 つまりこのギルドカードに書かれていることは事実であり、それによってギルド入団に対する年齢制限や、飲酒の許可が判断されるのだ。


 それをリオティスから受け取ったレイクとアルスは、何度もカードと本人を見比べた後で、諦めたように項垂れた。


「マジかー、絶対同い年だと思ったのに」

「確かに驚きッスね⋯⋯。全然そんな感じしないんスけど」

「だよなー、絶対偽のカードだぜこれ」

「んなわけあるか。そもそもこれはディザイアが作ったものだ。それを偽るなんて不可能だってのは知ってるだろ。わかったら今度から俺への態度は気を付けるんだな」

「えぇー、そういうこと言うのかよ。でもほら同期には違いないだろ?」

「そうッスよ! 俺も今の話し方の方が落ち着くんで、変えるつもり無いッス」

「こいつら⋯⋯」


 結局今まで通りに煩く接してくるレイクとアルス。

 そんな二人を面倒くさそうに見つめながら、説得は不可能だと判断したリオティスは、再び毛布を被ろうとする。


「だから逃げるなよ。せっかく同じギルドに入ったんだから仲良くしようぜ」

「そうッスよ。リオっちは何か俺たちに聞いてみたいことは無いんスか?」

「聞いてみたいこと⋯⋯」


 リオティスは考えてみたが思い浮かばない。

 そもそも彼らと仲良くするつもりはなく、興味だってないのだ。


 だが、ここで何か聞かなければ余計に面倒な事態に巻き込まれるのは明白。

 そこでリオティスは適当に尋ねた。


「じゃあお前らは何でこのギルドに入ろうと思ったんだ?」


 リオティスの何気ない言葉に二人は一瞬だけ固まる。


 この〈月華の兎(ルナミラージ)〉は世間一般からして最低最悪のギルドとして認知されている。それは魔獣事件で罵声を飛ばしていた人々の反応からしても間違いない。


 そんなギルドにわざわざ入ったのだ。

 そこには何かしらの理由があって当然だった。


 すると、最初にレイクが口を開いた。


「俺は別に深い理由は無いッス。ただ妹が病気でそのためのお金を稼ぎたかったんスよ。そんな時、昔憧れていた〈月華の兎(ルナミラージ)〉のことを思い出したんス。元々ギルドに入るように両親に鍛えられてたんで入るのには苦労しなかったッスけど」

「へぇー」

「ちょっと、何で聞いといてそんな興味なさげなんスか!」

「いや、なんかあまりに普通だったから」

「うっ、それはそうッスけど⋯⋯」


 レイクは少しだけ落ち込むように声を小さくした。


 だがリオティスからすればそのような理由で〈月華の兎(ルナミラージ)〉に入るわけもないと考えていたため、レイクが嘘を吐いているように思えた。


 そうでなければただのバカだ。

 だからこそレイクが嘘を吐いているのが確実なのだが、そんなバカの集まりが〈月華の兎(ルナミラージ)〉でもあるため、意外に本当なのかもしれない。


 落ち込むレイクを他所に、次はアルスが勢いよく言い放った。


「よくぞ聞いてくれた。俺がこのギルドに入った理由、それはロメリアちゃんとお話しするためだ!!」


 声を大にして、したり顔をするアルス。

 一方のリオティスはもうその先の言葉を聞きたくなくなっていた。


「⋯⋯そうか。じゃあもうわかったし黙っていいぞ」

「まぁまぁ、聞いてくれって。俺は一か月程前に街中でロメリアちゃんと出会ったんだけどさ、もう一目惚れよ! あの柔らかくも優しい雰囲気! まさに女神!! 特に彼女は両目で色が違うだろ? あの右目の赤い瞳が最高にキュートでさ。そんなロメリアちゃんとお話しするためにこのギルドに入ったってわけ。ちなみにこれガチね」


 アルスは興奮気味に語るが、もう何も聞きたくなかった。


 やはりこの〈月華の兎(ルナミラージ)〉にはバカしかいないらしい。

 リオティスはうんざりするように溜息を吐くと、今度こそ毛布に包まって目を閉じた。


「だから寝るなって! オイ、レイク。一緒に擽り攻撃だ!」

「あんま邪魔しちゃリオっちが可哀そうッスよ?」

「お前だってもっとリオティスと話したいだろ? やらないなら俺がやるぜ。さぁリオティスちゃん。その可愛いお顔でどんな声を聞かせてくれるのかな?」

「だからやめろよ変態野郎!」

「そうッスよ、アルスっち。安心してくださいッス、リオっち。俺が傍で寝てあげるッスから」

「ずるいぞレイク! なら俺も一緒に寝てやるぜ!」

「じゃあリオっちを真ん中にして挟んで寝るッス。その代わりアルスっちは静かにするッスよ?」

「いいね! まかせとけって。げへへ⋯⋯」

「いやだから煩いんだよ! それと勝手に俺の布団を動かすな! そしてキモイ顔を俺に近づけるなァ!!」


 やりたい放題にするレイクとアルス。

 そんな彼等に安眠を妨げられたリオティスの声は、朝まで止むことは無かった


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