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始まりのメモライズ  作者: 蓮見たくま
第2章 アンジュ~始まり~
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第10話 世界二位のギルド①


「酷ェな。こりゃあ」


 リオティスは崩壊した街並みを見てそう呟いた。


 悲鳴を上げながら逃げる群衆とは逆方向へと足を進めれば、見えてきたのは無残にも壊された建物に、隕石が落ちてきたかのような穴の数々。リオティスの嫌な予感通り、他の魔獣が街で暴れまわっていたのは言うまでもなかった。


 とはいえ、そんな惨状を目の当たりにしたリオティスは、寧ろ被害が小さいように感じていた。


 空高くに〝ネスト〟が出現してから既に三十分は経過している。それにも関わらず、崩壊しているのは街のほんの一部分だけで、そのエリアに関しては見るにも耐えない悲惨な状況ではあったが、本来ならば街全体が危機に瀕していてもおかしくはなかった。


「どうやら既に魔獣は討伐されたみたいだな。流石にこれだけギルドが周りにあれば当然か」


 リオティスの視界にはギルドで活動している人々の懸命に足掻く姿があった。


 瓦礫の下敷きになっている人間を助ける者や、怪我人を治療する者。

 そんなギルドの素早い対応を見れば、これだけの被害で済んだことも頷ける。


「一応慌てて来たが俺の出番は無いらしいな⋯⋯って、ん?」


 街中を見渡していたリオティスの目に、ふと見知った顔が横切った。


 それは大きなシャボン玉の上で力なく倒れているフィトと、彼女を興味なさげに運んでいるルリの姿だった。


 リオティスは急いで二人に近づくと右手を挙げた。


「よぉ、さっきぶりだな。元気にしてたか?」

「どう見たら元気だと思うんですか!? 見てくださいよこの腕! うぅ、どうしてボクがこんな目に⋯⋯」


 シャボン玉に乗りながら浮かんでいるフィトは泣きながら両腕を垂らしている。

 どうやら彼女たちも魔獣と遭遇したらしい。


 だが、リオティスは状況を把握しておきながらも、目立つことを避けるべく知らないフリを決め込んだ。


「重症じゃねェか。この街といい何があったんだ?」

「魔獣ですよ、魔獣! いきなり街に魔獣が現れて暴れだしたんですよ!!」

「マジか。そんなこともあるんだな」

「何でそんな平然としてるんですか! これは大問題ですよ!?」

「でもどっかのギルドがもう倒したんだろ? それに命もあってよかったじゃねェか」

「⋯⋯リオティス。そのことだけど⋯⋯」


 と、ルリが何かを言おうとしたその時、頭上から甲高い鳴き声が響きだす。


「キィエエエェッ!!」


 謎の声に周りの人間が一斉に空を見上げる。

 そこには全身に炎を纏った巨大な鳥が飛行していた。


「あれも魔獣かよ!?」


 リオティスは瞬時に警戒態勢を取るが、遥か上空を飛行する魔獣に対して有効な手段がなかった。


 短剣では当然届かないし、〈ダブルピース〉で刀剣などを創造して放ったところで有効射程圏外。まず致命傷には至らないだろう。


 そうこうしている間にも、魔獣は地上へと接近していた。


 そして魔獣は地上の人間を見下すが如く咆哮を上げると、口を大きく開け、肺へと目一杯の空気を送り込んだ。


「オイ、なんかヤベェぞ!!」


 危険を察知しリオティスが叫ぶも遅く、魔獣は口から炎を吐き出した。


 広大な森すらも一瞬にして焼き払ってしまえるような圧倒的な熱量。その炎が街を包みこもうとした時、上空へと黒い影が跳躍した。


「〈命を喰らいし者(ソウルイーター)〉」


 跳躍した影はそう呟くと、炎に向かって右手を広げる。


 到底受けきることが不可能な広範囲の炎。

 だが、男の広げた右手に炎が触れた途端、急速な勢いで掌の中へと吸収され始めた。


 そして、気が付けば男の右手に全ての炎が吸い込まれてしまったのだ。


 周りに居た人々は何が起きたのか理解できず、全員が驚愕の表情で口を開ける。それは魔獣も同様で、目前の出来事に対して意味がわからずに硬直した。


 時間にして一秒にも満たない硬直。

 その刹那の時間に炎をかき消した男は魔獣の背中へと移動していた。


「俺の上を飛ぶんじゃねェぜェ。この焼き鳥がァ⋯⋯!」


 男は素早く魔獣の背中へと右手を広げる。


 すると、魔獣の体を黒色の塊が包み込んだ。

 

 ドロドロとした液状の黒い何か。

 それは底の無い闇を浮かべたようで、魔獣の全身を覆ったその闇が男の手に吸収されたかと思うと、そこにはもう魔獣の姿は跡形も無く消滅してしまっていた。


 全てがほんの数秒の出来事。

 男が何をしたのかさえ、地上から見上げていたリオティスにはわからなかったが、ひとつだけ理解することが出来た。


 それは頭上に浮かぶ男が、今までに出会ったどの人間よりも強いということだった。


 魔獣が消え、静まり返る空間。

 全員が息をすることさえ忘れていた最中、群衆のひとりがポツリと言葉を漏らした。


「⋯⋯あれってまさかルフス=ルピナス!? 本物かよ!!」

「ルフスってあのルフスか!? す、すげぇ⋯⋯俺初めて見た!」

「ヤベェ⋯⋯ヤベェって、マジヤベェって!!」

「キャー! ルフス様!!」

「ダメ、格好良すぎて直視できない⋯⋯」

「オイ、倒れたぞ! 誰か運んでやれ!」


 ひとり、またひとりと声は増えていき、気が付けば街中はルフスへの歓声で埋め尽くされていた。


 その様子を見ながらリオティスは言う。


「何だこの人気。やっぱアイツ凄ェ奴なのか」

「君、まさかルフスさんを知らないんですか!? 彼はあの〈六昇星(セクスタント)〉トップツーのギルド〈夕星の大蛇(ウェヌスレピオス)〉のギルドマスターですよ!」

「〈六昇星(セクスタント)〉⋯⋯」


 リオティスはそこでようやく頭上に浮かぶ男、ルフスが何者なのかを理解した。


(あれが世界で二番目に強いギルドのリーダー。もしも今の俺が戦ったら勝てるかどうか⋯⋯)


 値踏みするようにルフスを見るリオティス。

 この場で唯一ルフスを敬うのではなく、戦った時の敵として捕らえていたリオティスからは、ほんの僅かな敵意が漏れ出していた。


 当然声に出していなければ顔にも出していない、そんな僅かな敵意。それを発した瞬間、リオティスの目の前にルフスが下りて来ていた。


 いや、正確には出現したと言った方が正しいだろう。

 何もない空間にポッと生まれて来たかのように、リオティスにはルフスがいつのまに自分の前に立っていたのかもわからなかった。


 瘦せ細ってガリガリの骨のような男。

 だが目つきは鋭く、視線だけでも魔獣を殺せてしまえそうなほど鋭利で、口から覗かせる尖った牙のような歯も合わさってまるで猛禽類のようだった。


 ルフスはリオティスを睨みつけて言う。


「お前だろォ。()()()()()()を俺に向けやがったのはァ。アァ?」

「⋯⋯なんのことかわからねェな」

「オイィ、オイィ⋯⋯もう喋るなよォ。お前からは嘘の味しかしねェ。そんな不味いもんを俺に食わせるんじゃねェよォ。死にたいのかァ!?」


 ルフスの殺気が充満する。

 先ほどまでの魔獣達が可愛く見えてしまう程の鋭い殺気に、周りに居た人々全員が一歩も動くことが出来なかった。


 全身からは一気に汗が吹き出し、呼吸することも出来ず、吐き気や眩暈までもが襲い掛かる。


 これがSランク二位の圧力。

 だが、それを一身に受けているリオティスも一歩も引かなかった。


 まさに一色触発の空気。

 今にも戦いが始まりそうだったその時、ルリが二人の間に割って入った。


「⋯⋯喧嘩はダメ。お菓子あげるから落ち着いて」


 と、ルリは相変わらずの無表情で二人にお菓子を手渡した。


 その行為に周りの空気が凍るが、一方のルリはどこか自慢げに次から次へとお菓子を取り出す。そんなあまりにもマイペースすぎるルリにフィトは顔を青ざめた。


(なにやってるんですかルリ!? いや、ほんとに何やってるの!? この状況わかってるんですか!!)


 声にならない絶叫をフィトが放つが、当然ルリには届かない。


 止まらないルリの行動にルフスも困惑の表情を見せたが、再び怒りを露にすると彼女から手渡されたお菓子を口に放り入れた。


「ふざけんなよォ。こんな菓子の一つや二つで俺を止められるとでもォ⋯⋯んぐ!?」


 お菓子を口に入れたルフスが目を見開く。


 よもや喉にでも詰まらせたのかとフィトがさらに恐怖したが次の瞬間ーー、


「んめェなァ~。ふへへへ、甘くてほっぺがとろけるぜェ~」


 と、ルフスは幸せそうに頬を緩めて涎を垂らしていた。


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