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始まりのメモライズ  作者: 蓮見たくま
第2章 アンジュ~始まり~
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第5話 同期④


 数メートルほど吹き飛ばされたリオティスだったが、何とか立ち上がってフィトの方を見る。

 彼の拳はうっすらとした靄のようなものに包まれていた。


「魔力を拳に集中させて殴ったのか。けほっ、痛ェ⋯⋯」


 呻くようにリオティスは言う。


 フィトに殴られた腹部は痛みと共に悲鳴を上げていたが、深刻なダメージではない。

 だが、それはフィトの打撃が弱かったからではない。寧ろリオティスはフィトの攻撃力の高さに驚いていた。


 彼の打撃には魔力が込められていたのだ。

 通常、魔力はどの人間にも一定量流れている物なのだが、普通の人間がどれだけ魔力を鍛え操れるようになったとしても、才能ある魔法師でもなければ活かすことはできない。


 せいぜいが魔力で自分の身を防御することで精一杯で、リオティスも普段から魔力の防御に関してはよく使用していた。


 魔力とはエネルギーであり、力だ。

 体内で巡るその魔力を腹部に集中させれば鎧のように身を守ることも出来る。


 だが、それはやはり常人の域を出ない。

 この世界に蔓延る能力者たちには手も足も出ないだろう。


(けど、目の前のフィトは完全に魔力一本で戦ってやがる。あの拳に相当の魔力を集中させて殴ったんだろう。だから俺の魔力の防御も貫通したんだ。一瞬で懐に潜られたのも魔力を足に込めて身体能力を上げたってとこか⋯⋯)


 そのリオティスの分析は正しかった。


 通常、魔力を込めた拳で殴ったところでリオティスも魔力で防御をすればダメージを食らうことはない。それでもフィトの拳が防御を上回ったということは、それだけ多くの魔力を拳に纏わせていたということに他ならなかった。


 圧倒的な魔力量に、それを精密に操作する技術。

 少なくとも、彼ほど魔力に長けた人間をリオティスは見たことがなかった。


「そういうことです。けど次はもう手加減はしませんよ!」


 フィトは立ち上がったリオティスに向けてそう宣言したが、実際は今の攻撃で決めるつもりだった。


(結構深く入ったと思ったんですが、今の感触は魔力でガードされた⋯⋯? いや、こんな屑がボクの速度に反応できるはずがないです! 次はこんなまぐれは許さずに仕留める⋯⋯!)


 そう考えたフィトは再び足に魔力を集中させてリオティスを追撃しようとする。だが、一方のリオティスはただゆっくりと歩くだけで戦う気が感じられなかった。


「君、なんのつもりですか? もしかして降参するつもりですか」

「いや、確かにお前ほど常人で魔力をそこまで制御できる奴始めてだよ。けどもう()()()()()()


 リオティスは両手を上げる。

 やはりそれはフィトからすれば降参したようにしか見えなかった。


「ふん、確かに勝負はつきましたね。ボクの勝ちですッ!」


 フィトは勝利を確信して足を一歩踏み出そうとする。だが、そこで彼はとあることに気が付いた。


(両手に短剣が握られていない⋯⋯?)


 フィトの目に映ったのは降参するように両手を挙げたリオティスの姿。しかし、その手には先ほどまで握っていた短剣が無かったのだ。


 そんなフィトに対してリオティスはニヤリと笑う。


「頭上に注意しな」

「え?」


 刹那、フィトの体に鋭い痛みが走った。


 まるで電流が体を巡るように痺れて動くことが出来ない。


 何が起きたのかわからなかったフィトの足の甲には、短剣の柄が当たっていた。


(まさか殴られた瞬間に短剣を頭上に放り投げてた!? けど、どうやってそれをボクに当てたんだ。そもそも投げてから落ちるまでに時間がありすぎる⋯⋯!)


 痺れて動けない状態でありながらフィトは頭を回す。

 だが、リオティスのメモリーに触れてしまったという事実以外に彼が理解することは出来なかった


 当然だ。

 何故ならばこれはリオティスの記憶者(メモライズ)としての能力だからだ。


 リオティスが短剣を手放したのはフィトが考えたようにあの殴られた時だった。その瞬間、リオティスは短剣を頭上に投げながらも〈ダブルピース〉の能力によって数枚の黒いピースも一緒に投げていたのだ。


 右手から放出される黒い〈創造〉のピース。

 それは上空で短剣を固定するように集まりあっていた。


 まさに死角。

 後はタイミングを合わせて能力を解除し、短剣を落とすだけだった。


 正確にフィトに当て、且つ傷つけないように刃では無く柄に触れさせる。

 本来ならば余程の運が必要になるが、意のままに動かすことの出来る黒色のピースを僅かでもメモリーに付着させていれば、ピースの動きに合わせてメモリーもある程度操作することは可能だ。


 仮にリオティスが記憶者(メモライズ)だとわかっていれば、もう少し警戒することも出来ただろう。


 だが、紋章を隠しているリオティスを見て、フィトに気が付けという方が無理な話だった。


 だからこそ、フィトには何が起きたのかわからない。


 リオティスはそんな彼に近づくと蹴りを放つ。


 それは男ならば誰もが持つ急所、金的狙いだった。


 痺れて動けないフィトは当然避けることが出来ない。


 つまりこれでリオティスの勝利。

 能力も隠しつつ、必要最低限の労力で掴んだ勝利。そのはずだったーー、


「はぁん⋯⋯!」


 金的を食らったフィトは情けない声を出して蹲る。


 そして、その蹴りの感触にリオティスは驚いたように言った。


「お前、まさか女かよ!?」

「ぐぅ、うぅぅ⋯⋯」


 リオティスの声に反応することなくフィトは泣き出し始める。


 深くかぶっていたフードも取れ、露になったのは短い橙色の髪をした少女の姿。そこでようやくリオティスはフィトが女性だということに気が付いた。


「酷いです⋯⋯女性にこんなことするなんて、グスっ。やっぱり君は屑野郎です!!」

「待て待て、蹴ったことは謝るがふっかけてきたのはお前だろ!?」

「うるさいです! ボクにこんなことをして⋯⋯ぶっ殺す!!」


 フィトは睨みを利かすとリオティスに向かって殺気を飛ばす。


「だから待てって! オイ、タロットこいつどうにかしろ!!」

「いや、こればっかりはご主人が悪いぞ。タロットはご主人にどんな趣味があっても受け止めてやるがな!」

「私もちょっとこれは⋯⋯あ、でも、その、リオティスさんがしたいって言うのなら私も⋯⋯」


 などと口々に訳のわからないことを言うタロットとリコルに、リオティスは助けを求める相手を間違えたことを後悔した。


 咄嗟にレイクへと視線を移すが、彼は苦笑いを浮かべるだけだった。


「まぁ、その⋯⋯とりあえず謝りましょうリオっち。俺も一緒に謝るッスから」

「リオティス⋯⋯流石に女の子に手を挙げるのはどうかと思うぜ。仕方ない、俺がフィトちゃんを抱きしめて慰めてあげるよ」

「ぐっ⋯⋯こいつら」


 もはやリオティスの味方はいないらしかった。


 すると、ティアナもゴミを見るような目でリオティスを睨む。


「⋯⋯あなた本当に最低ね。死んだらどうかしら」

「だからお前らがふっかけてきたからだろ!? それにこのお漏らし野郎だって⋯⋯」

「オイ、誰がお漏らし野郎だ! ボクは漏らしてない!! やっぱり我慢できません。絶対にぶっ殺します!!」


 そうしてリオティスに襲い掛かるフィト。

 周りも巻き込まれていよいよ収拾がつかなくなったその時に、ようやくバルカンが止めに入ってきた。


 その顔は可笑しくてたまらないというように笑っていた。


どうして直接肌に触れてはいないのに、靴に当たっただけで痺れるんだよ!

⋯⋯というツッコみは無しでお願いします。だってほら、それだと手袋着けてれば誰でもメモリー使えるじゃん!ってなるので。そう、これは仕方がないこと。決して作者のガバではありません!

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