表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第1章 第1話 メイド

「メイドー、メイドはいりませんかー?」



 市街地から遠く離れた廃棄物の山に溢れた広大なゴミ捨て場、『ヒドゥンエリア』に、その汚らわしさとは不釣り合いな美しい声が響いていた。



「契約していただければ日常のお世話から将来の展望まで全て面倒を見ます! 今なら一月たったの20万マギ! 安いですよー、格安ですよー」



 その額もまた不釣り合い。ゴミの中から使える物を探し当て、それを売って日銭を稼いでいるこのエリアの住人にその額は年収にも満たない額だった。



「本当にお願いします! 私を雇ってください! 何でもしますから!」



 そして最も不釣り合いなのは、彼女の存在そのものだ。この国の汚れの全てが行き着く黒の街とは正反対の、白。髪や肌、メイド服すら汚れ一つない純白を纏った少女、イユ。そんな彼女がここに辿り着くことになったのは、つい数日前の出来事が原因だった。




☆☆☆☆☆

「イユ、お前はクビだ」



 いつものようにメイドとして働いていた彼女に、その言葉は唐突に投げつけられた。



「……御主人様、御冗談を。私はレイワン王国伯爵家、『ザイアーク』に仕える最高のメイド、イユです。そんな私をクビだなんて……」

「何が最高のメイドだ。お前が仕事をしているところなど見たことないぞ」

「それは……!」



 メイドとは主の見えないところで働くもの、と言いたかったが、言えなかった。周囲をザイアーク家の者や使用人が囲んでいるからではない。それがイユが自身と自身で結んだ『契約』だからだ。



「お前も知っての通り、我がザイアーク家は先日の新規開拓により王から褒美を受け賜わることとなった。そして近々王自らこの屋敷に足を運ぶこととなっている。当然最高級の歓待をしなければならない。わかるだろう? お前の存在が邪魔なんだ」

「それは……私が孤児だからでしょうか」

「その通り。一流の家には一流の使用人がいるもの。身分のないお前を雇っていると知られたら、それだけでザイアーク家の格が下がるというものだ」



 イユがザイアーク家に拾われたのは5歳の頃。戦争孤児の彼女をメイドの一人が引き取り、メイドとして働くこと10年。ほぼ無給で無休の労働の対価が、突然の解雇だった。しかしイユにはまだ最後の砦があった。



「『契約書(ライズ)』!」



 そう唱えると、イユの手元に一枚の紙が現れた。



「私と御主人様の間では『契約』が結ばれています。契約とは双方の合意で結ばれ、双方の合意で解除されるもの。一方的な解除は認められていません!」



 全人類が必ず一つ持つ固有スキル。イユの場合、それが『契約(コントラクト)』だった。双方の間で契約内容を定め、それを絶対とするもの。これがある限り、主従関係は切れない。そう思っていたのはイユだけだった。



「ふん。そんなただの紙切れを出す外れスキルに何の意味がある」

「あぁっ!」



 伯爵はイユから契約書を奪い取ると、無惨にもビリビリに引き裂いてしまった。これでイユがメイドとして働き、乙(伯爵)が生活の場を提供するという契約が、乙によって一方的に破棄されてしまった。



「さぁ、これで文句ないだろう? お前はクビだ。さっさと私の前から消えろ」

「……かしこまりました」



 契約がなくなった以上、イユがこの屋敷に居座れる理由はない。



「今までお世話になりました」



 かつての主や同僚の嘲笑の中イユは一度頭を下げ、屋敷を出た。




☆☆☆☆☆

「メイドとして働かせてください! 何でもしますから!」



 それから数日後。わずかにもらっていた賃金を使い潰しながら、イユはヒドゥンエリアへと流れついた。



 物心ついてから10年間、メイドとしてしか働いたことのないイユ。そして自身と自身で交わした『十の契約』により、メイド以外の仕事をすることはできない。だから生きるためにメイドとしての雇用を叫び続けるイユ。そんな彼女に、三人の男が近づいてきた。



「なぁ姉ちゃん、ほんとに何でもしてくれるんだよな?」



 小汚い装いをした男たちに話しかけられたイユは、ぱぁっと笑顔を浮かべて頷く。



「はい! 一月20万マギで何でも致します!」



 その返答を聞いた男たちはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら視線を合わせる。



「よし、じゃあメイドとして働かせてやる。ただし俺様たちの命令は絶対だ」

「もちろんでございます。では……『契約書』! こちらにお名前と拇印をお願い致します。あ、朱印は必要ございません。親指を押しつけていただければ魔力により自動的に刻まれます」



 イユが作り出した契約書に全く目を通さず、男たちは紙に名前と魔力の拇印を刻んでいく。



「これでいいんだな?」

「はい! 前金形式となっているので1時間以内に20万マギのご準備をよろしくお願い致します、御主人様」

「はいはい」



 こうしてイユの新たな仕事先が見つかり。



 1時間後、3つの死体がヒドゥンエリアに捨てられるのだった。

おもしろい、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークのご協力をよろしくお願いいたします! みなさまの応援が力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ