妹、思い出す。
何が起きたのか分からなかった。
「……え……」
急に目の前が真っ暗になったかと思うと、気が付けば見慣れた天井が目の前に広がっていた。煌びやかなシャンデリアがきらきらと輝いている。
違う、そうじゃない。
もちろん、自分がなぜ急に倒れたのかも分からないが、私の頭は別のことで混乱していた。
「オリビア、大丈夫か!?」
お父様のお声が聞こえてきて、ベッドに横たわったまま視線をずらす。
「おとう、さま……?」
自分のか細くて女の子らしいソプラノの声を聞いて違和感を感じる。目の前にいる人物、もとい父親にも。
お父様ってこんなお顔だったかしら……ってそもそも、私こんな口調だったっけ?
違う……これは、私だけど、私じゃない……。
脳裏に浮かび上がっているのは、右手にスマホを持って友達と自撮りをしまくる自分。自転車に乗って帰り道にタピオカとクレープを食べている自分。
ガバッと布団を捲って、起き上がった。
「お、オリビア。鉢植えが頭にぶつかったんだから、まだ冷静にしていないとだめだよ……」
おろおろとするお父様を横目に、私は思い出した。
そう、植木鉢が頭にぶつかった瞬間、全てを。
――私、転生してる!?!?
なんて、ベタな展開なんだ。
周囲を見渡せば、お父様とお母様、そしてメイドたちが見守っている。枕元にはくまやうさぎのぬいぐるみにふわふわのクッションがぎっしりと置かれていて、一人で寝るには広すぎるぐらいの天蓋付きのベッドの上に、私はいた。
「お、お父様……」
「どうした!? どこか痛いのか!?」
「鏡……鏡が欲しいわ」
震える声でそう言うと、すぐにメイドが手品かと思うぐらいの速さで手鏡を用意し、丁寧な所作で渡された。それを受け取り、恐る恐る鏡を自分の目の前に盛ってくる。
「やっぱり……」
私は、本当に転生している。
鏡に映る自分は「エストレア・オリビア」という名前の、公爵令嬢だ。