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目が覚めると目の前に銀色の髪の綺麗な人が眠っていた。少し遅れて、侯爵様だということを認識する。私はあの後そのまま眠ってしまったらしい。


(……まつ毛長いなぁ)


寝ている侯爵様の顔をまじまじと見る。


(やっぱり会ったことは無い……よね)


一度も会うことなく家の為に結婚することは、近年は少なくなったが特別に珍しいということでも無い。

けれど物語での侯爵様は政略結婚されられた事を嫌っていたし、アレックも初めはあまり歓迎していたようには思えなかった。


(物語の方は今の侯爵様と全く違うけれど、話としては辻褄が合う)


それはルーゼイン家と貴族との根深い問題。ルーンウェル公爵家は家名だけでいうのであれば、200年前から続く大貴族のひとつだ。

貴族から敵意を向けられるルーゼイン家が、そんな貴族の中の貴族のような所にわざわざ繋がりを持とうと思うだろうか。余程の利点が無ければ侯爵家にとってはリスクの方が高いだろう。


だが、ルーンウェル家からであればお爺様の考えは分からないが不利益な事は特に無い。


(物語よりも1年早いし、昔に会っていた記憶も無い。という事は、どうしたって結婚に理由があるはず)


けれど侯爵家で過ごしている間、経済面での事は特に問題は無さそうだし、人手が足りないとはいえ、それは新米の兵士に対して教授する側の方だ。

あるとすれば魔法石の事かもしれないが、これも王国側からの支援がある。


そもそも、細かいことをごたごたと考えずに早く理由を聞いてしまえばいいのに。

考えているうちに、妙な気分におそわれた。


(……もしかして、今私は理由を知るのが怖いの?)


婚約を結ぶには何かしらの訳がある。それは物語と違おうとも変わらないはずのこと。


「んん……」


気が付けば、侯爵様が目覚めたようだ。


「あぁ……おはよう、ラシェル……」


侯爵様の手が私の頬を優しく撫でた。


「おはようございます……侯爵様」


彼が、優しくて、あまりにも大切そうに触れてくれるから

無条件に、何も裏に打算がなく婚約したのだと、そんな夢みたいなことを考えてしまう。


(そんな事あるはずないのに)








さて、ようやく決まったらしい私に仕える侯爵家のメイドはそれはもう、とんでもなく、これ以上の侍女はいないと思わせるくらい


ハンナは仕事が出来なかった。


「も、申し訳ございません!!!またカップを割ってしまいましたぁぁ」


「きゃぁぁ!?お嬢様のお気に入りのカップが!?!?」


さっそくハンナは持ってきた紅茶を盛大にひっくり返して頭を地面にくっ付いてしまうのではないかというくらい下げて謝罪する。惨状にリズが悲鳴をあげて、シエラは頭を抱えてよろけていた。


仕事が出来ないは強めの言い方だったかもしれない。適切な言葉に直すのなら、ドジ、だろうか。


《侯爵家はいわば行く宛てのない者達の最後の砦。様々な理由で流れ着いた使用人が多いので、優しくしてあげてくださいね》


なんてアレックは言っていたが、何故よりによって彼女なのかという疑問くらいは持たせて欲しい。


「カップの事は大丈夫、気にしないで……気を悪くさせたら申し訳ないのだけれど良く今までメイドのお仕事が出来てたね?」


そう言いながら、カップの破片を急いで拾おうとして切れてしまったハンナの手を取り手当をする。


(あら?手に剣だこがある)


「お、お嬢様が手当して下さるのですか!?あ、ありがとうございます……」


「実は私、ここに来る前まで騎士をしていたんです。腕に怪我を負っちゃって力が入らなくなってしまって……あ、日常生活には支障ないんですけど、でも剣を扱うとなるとどうしても厳しくて」


「騎士をなさっていたんですか!?」


私が何か答える前にリズが凄い勢いで食いついた。ハンナがいうには、王都と違い、北部は剣を持つ女性騎士がそこそこいるのだという。


「もしかして剣に興味があるのですか?兵舎から1本借りてきましょうか!」


「えっ!……そ、そんなことしていいんですか……?」


「侯爵家はそういったことに寛容なんですよ、私もたまに借りるんです!剣は握れなくなりましたが短剣やナイフの技術はまだまだ修練しています!」


主人をほっぽいてリズとハンナの会話が弾んでいるところに、シエラがまるで天の声のようにそういう話はお仕事が終わってからにして、お茶を入れ直したらお祭りの服装をきめますよ、と場を制するのだった。




北部の服装の問題は重量だ。とても暖かいがとても重い。侯爵様に誘われたお祭りは夜からだというため、如何にして重量を抑えて鉄壁の暖かさを持たせるかということに四苦八苦していた。


「うーんこれも重そう、ハンナもう少し薄いのはないの?」


「シエラさん、これ以上軽いと今度は寒いかもしれません」


(多少の寒さくらい大丈夫だと言っても聞き入れて貰えないんだろうな……うーん上着……上着か……)


「あ、そうだハンナ、上着じゃなくて肌着のようなものは無いの?」


「肌着ですか?特殊な生地のは無いと思いますけど」


「特殊な生地で出来た肌着のようなものと、上着を合わせたら問題が解決しないかなぁなんて……思って……」


そう、ずっと思っていた。上着の上に上着を重ねるから動けなくなるのだと!


「そ、それは盲点でした!」


魔法石を細かく砕いて布に編み込こんだ上着は元々は兵士用に防御面も意識して作られた身軽な鎧モドキのような物だったらしく、だから今まで上着、コートやマントしか無かったとのこと。


「今回は間に合わないかもしれませんが、アレックさんに掛け合ってみます!」


結局のところ現状は解決してないが、将来的にはもっと扱いやすいものになるかもしれない。


程々の重ね着で暖かさよりも動きやすさをとることをどうにか侍女に納得してもらい、服装選びに程な気を得た後の事だ。

使用人が、届いた私宛の手紙を渡してくれたその手に見覚えのある封筒があった。


「そちらの手紙は?」


「此方の手紙は侯爵様にいつも渡しています。宛名が無いのでどなたからなのかは分からないのですが……」


宛名が無いらしい手紙は、私がアーリアに貸した便箋によく似ている。偶然だと流してしまえばそれまでだが、どうしても気になってしまう。


(あれ……?まさか、アーリアは侯爵様と知り合いだった?)


そして私宛に届いた手紙は、アーリアからのものだった。

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