52 皇御国の終盤
目の前にいる侍。丁髷頭の侍とは全く違い、普通にストレートな髪型だ。侍の格好とは似つかわしくない。と言うより、見たことがない。
風が吹き、そのストレートな髪型が靡かれた。見た目は爽やかイケメン。のはずなのに、何故こんなにゲス顔をしているのか。
殴りたい。
まるで「馬鹿な女だ、アッハッハッハッハ!」と言う声が聞こえそうだ(幻聴)
金属音と金属音の鳴る音が、響き渡る。
刀と魔剣。圧倒的に違うが、やはり侍で場数が違う。一撃一撃がかなり重たい。
(くそっ、やはり侍のようだ。侍はもしかしたら俺の家系にいるかもしれないのか!)
俺は日本人。そう、と言う事は侍は近いしものを感じる。学生の時に社会とかで習ったりした時に侍の名前や、その当時のことが教科書で確認できる。
そのため、ある意味で心が躍っているのだが、まさかここまでゲスな侍に出会うとは……。
「おりゃあ!!」
「フッ!」
———カキン! カキン!!
「ハァ!!」
「ぐぅっ!!」
———ドコッ!! ドカッ!!
「ハァ…ハァ…」
「ハハッ、おい。もう終わりか?」
(くそ、体力が………全くねぇよ)
俺はルアの方を見た。すると、俺の視線に気づいたのか勘のいいルアは、アイヴィーさんの元へと行き、自分自身の背中に乗せた。
「な!? 逃すわけねぇだろ!!」
「そうはさせない!!」
「ぐっ!?」
このままじゃ、敵に逆転される。そう思うほど俺の体は疲労しきっていた。
あと、眠気の限界が突破したのか、全く眠気が来ない。
流石に、誰かを呼びに行かないとまずい。いろんな意味で。
「フッ!」
「………!? 反応が!?」
(おく………れた………!?)
刀の追撃が鋭く走る。腕に痛みが走った。血が飛び出ることが嫌と言うほどわかる。
「ぐっ!!」
その反動で地面に転がってしまう。
「………!! 大丈夫ですか!?」
『ガルルルルっ!!』
「ぐっ……、ルアは急いでアンナさんたちを呼びに行って……! それと、アイヴィーさんを安全な場所に!!」
ルア達はその場から立ち去り、それを目視する。なんとか立ち上がるも、再び追撃が走る。追撃といっても蹴りだ。思いっきり蹴りがお腹に入る。
「ぐっ!?」
地面を転がるようになり、お腹を押さえる。息が切れる。
息が切れて、反応が遅れてしまう。最悪だ……。
体力が限界を越えそうだ。もう、走ることができない。剣を振り落とすこともできない。なら、攻撃方法は一つだけ。
「ククク、おい。こんなもんか?」
刀を俺の首に当てる。血が出ないように、恐怖を与えるような。
ここまで、やばいと思ったのは何度目か。背筋に冷たいものが通る。
「お前は強い女だ。この、俺にまさかここまで持ち堪えるとは……。夢にも思わなかったぞ。でもいい。俺はお前が好みだ。味見をしてから遅くないだろう」
舌で下唇を伝う。その光景を間近で見る。かなり気持ち悪い。
(………好み? 嫌やわ。やめておくんなまし。私は好みじゃないのよ。……なんちゃって。まぁ、どうでもいいとして、至近距離に来てくれてありがとう)
俺は手を近づけさせ、発動させた。
「———『雷の賜物』
至近距離で雷魔法を発動させたため、目の前にいる男は間近で電撃に感電した。
ビリビリッ!
と、電撃が男の体を纏う。俺は、感電しないように突き飛ばした。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
(あれ、なんかデジャブ)
ものすごい既視感を感じさせる。気のせいか?
そのまま地面にへばりつき、シュッーと煙が舞う。
すごい、丈夫だ。
流石、異世界人。関係あるかどうかは分からないが。
「くそ、至近距離でやるとは……。流石だな」
(嘘だろ? まじか)
立ち上がる姿を見て少々驚いた。
だが、まだ魔力は十分にある。だから大丈夫。
「第二回戦だ! 『氷』!!」
俺の手から青色の魔法陣が現れ、そこから氷が吹き飛ぶ。冷気が飛び回り、その氷は真っ先に男の方に向かっていく。
「ぐはっ!!」
思いっきり腹の部分にあたり、綺麗さっぱりに吹っ飛んだ。
未だにお腹部分に痛みが走るが、鼻が延びたまま地面に倒れ伏していた。
顔が空を向くように倒れ、侍の上にのたれる。
「ふっ、いくら剣が無理だとはいえど、魔法では敵わないだろうな」
こちとら、魔法を扱うようになってから、10年。
剣は経験が少ないとはいえど、魔法の経験はかなりあると思っている。勝機は、どっちにしろあった。
「ハァ…、まぁ……ルア達を使ってアンナさん達を呼びに行かせなくてもよかったのかもしれないな……。『お前達もありがとな。もういいぞ』」
最後の最後で、周りにいた魔物達に言い放つ。糸が切れたかのように、俺の体は地面に倒れ伏した。
もう、疲れた……。
体力がほぼゼロに近い。魔力はまだあるがもう体がもたない。あとは、任せとこ。
♢♢♢
のちにアンナ達がやってきて、倒れているヴィーゼを発見する。すぐに駆け寄ったアンナ達は、ヴィーゼを心配しながら近づくが、確認すると眠っていた事を知る。安堵の息を吐き、ヴィーゼをルアの上に乗せ、睡眠を取らせた。
そしてその後日。取った神聖な薬草を使い、アイヴィーが調合した薬をミラの母親に飲ませた。
時間は普通にかかったが、ミラの母親はなんとか生き延びることができた。
母親の病が治り、ミラは母親に抱きついた。目頭に熱い涙を浮かばせ、そしてアイヴィーも無事であった事を心から喜び、それを側から見るヴィーゼとアンナ。
二人は微笑んだ。
「よかったね」と言う意味を込めて。
〜おまけ〜
「ヴィーゼ、ありがとね」
「うん、お陰でミラのお母さんも治せたし、お互い無事に帰れたし……。あなたのおかげで助かったよ。ありがとう」
「………………べ、べっつに〜……」
耳まで赤くなり、照れているヴィーゼ。それを見たミラとアイヴィーは、そのお礼も込めて一緒にいる事を決める。
それは何故?
理由としては、妖狐族を受け入れてくれるヴィーゼとその仲間の人たちなら。と。
ミラの母親も承諾し、アイヴィーは両親はいないが、ミラの母親を実の母親のように慕い、そのミラの母親もアイヴィーを実の娘のように可愛がっていたことから、二人一気に承諾した。
皇御国を出るのは、もう少し後からにする。
団子屋で団子を食べて、そして皆で温泉に入る。いくらヴィーゼが幼女とはいえど、中身はおっさん。もちろん、気にしないように、意識しないように入っていたため、温泉の暖かさを味わう事はできなかった。
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ミラとアイヴィーが仲間になった!
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