51 終盤目前II
「ルア! 頼んだ! 『お前らも頼んだぞ!』」
ヴィーゼはルアを侍たちの相手をさせ、他にも魔物を召喚させた。魔物使役であるヴィーゼには容易い事。
次々と姿を表す魔物たち。ヴィーゼの味方の魔物たちは、彼の意識に従い、一斉に侍たちに襲いかかる。
「くそっ! 邪魔だ!!」
『ギャオオオオオオ!!』
「こいつ、魔物を召喚させたぞ!!」
「くそっ! やめろぉ!!」
『ウォーーーーン!!』
(よし、時間稼ぎにはできそうだ!)
侍たちを魔物たちに相手させ、何とか中へと入る。
♢♢♢
(くそっ、まだいるのかよ)
侍たちを掻い潜り、俺は何とかここまで辿りつけた。出る頃にはあの二人が来ることを祈るばかりだが……。
後もうすぐで妖術の反応がある場所に辿り着けることができる。俺の目の前にあるのは、一つの扉。
あそこだろうな。すぐに予想できた。
(とにかく、魔法で……っと)
魔法で敵の注意を払い、そして転倒させる。
ふっ、計画通り。
というのは良いとして、これで見張りはいないな。絶好のチャンスは見逃さない。
その扉の前に立つ。木の扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。
そこには真っ暗な部屋の中、壁に寄りかかっている人がいた。
だが、全く見えん。誰がいるのか……。いや、アイヴィーさんだろうな。
光魔法で真っ暗な部屋を照らすと、白い耳に白い尻尾の生えている女の子がいた。
アイヴィーさんも妖狐族の一人みたいだ。俺はアイヴィーさんに歩み寄り、まずは口に塞がれていた布を取り外す。
「だ、誰?」
「あなたの友人、ミラの友人です」
「ミラの? って事は、ミラも一緒に!?」
驚いた顔と、驚いた声で俺に聞いてくる。手足に縛られているローブを切り、なんとか拘束を外した。
手足の自由が効いたアイヴィーさんと共に、この部屋から出ることを決意する。
「よし、行こう!」
「う、うん。けど、外には侍の人たちが」
「大丈夫。任せといて!」
アイヴィーさんの手を掴み、一刻も早くこの部屋から出る。廊下に出ると様子を見に来たのか、侍たちが現れる。刀を構えている侍たちだが、今は時間が1秒でも欲しい。
魔法で侍たちを吹っ飛ばせ、その隙に廊下を進む。
「………くそ、まだいんのか」
廊下の壁に背中を寄せ、まだ廊下にいる侍たちの様子を見た。
本当に鬱陶しい。どれだけいるんだ?
「………大丈夫……なの?」
「え、あぁ。平気。ここを辿れば外に出られる。その時に自分の使い魔がいるから、それでミラたちを呼んできて。流石に、自分一人じゃ無理だ」
「………でも、なんで助けてくれたの?」
そのことに戸惑いを隠せず、俺は間抜けな声が出てしまう。
え、理由ある?
と思ったが、強いて言うならばそういう性格だから?
だが、何故か言えずにいた。何故?
「うーん、なんでだろ?」
「………え」
答えを曖昧にさせた。うん、とりあえずなんとか突破させないと。
ひそひそ話で侍たちの耳に入らぬよう言う。
この先突破させるためには、どうするか。先程の魔法で魔力がまた減る。
とりあえず、外に出た時に二人がいることを祈るばかり。
♢♢♢
「え、ヴィーゼさんが!?」
「えぇ、なんか血相を変えて向かって行ったのだけど……」
「うんうん、なんかルアに乗って」
「ルアに……。わかりました! ありがとうございます!!」
団子屋にいたランスたちにお礼を言い、アンナは血相を変えて指差された方向へと走っていく。
その後ろ姿に疑問を思いながら、団子を頬張る。
(もしかして、ヴィーゼさん……! もしかして、一人で!?)
冷や汗をかきながら、走っていく。もしかして……と嫌な予感を感じながら。
ヴィーゼに心配を感じながら、重たい甲冑を着ながら走っていく。
流石は騎士というべきか。重たい甲冑を着てても息を切らせず走っていく。
たまたまアンナが探していた場所から、団子屋にいた。そこでランス、ローズ、カメリアと出会った。
と言う経緯だった。
♢♢♢
「あー! 鬱陶しい!!」
魔剣で侍たちを振り切り、白い手のアイヴィーの手を掴みながら、走り去っていく。
手放さないように、しっかりと手を掴みながら。
そんな様子に疑問を思いながら、ヴィーゼの後ろ姿を見ていた。
“どうして、人が私を助けるの?”
と、疑問に思いながら。アイヴィーも人間を信用できていない。調合師とは言えど人とはあまり介入しない。
(どうして………助けるの? ミラも無事だって言う事は、ミラもこの人が………?)
不思議に思いながら、足を進めていく。不確かな足取り。廊下を走りながら、息を切らしながら、汗を流しながら。
♢♢♢
ヴィーゼの手を離さないように、外へと出ることができた。すると、ほとんどの侍たちが倒れていた。血は流れていない。ただ気絶しているようだった。
だが、一人だけ。一人だけ立っていた。周りに倒れている侍たちの真ん中。言わば、倒れている侍たちに囲まれながら。
「お前か。あいつらが言っていた事は」
「………誰?」
この侍に懐疑を思いながら。鋭い目で相手を睨む。刀を構え、その銀色に光る刀をヴィーゼたちに向けさせる。
耳を澄ませると、心臓の鼓動が鳴る。
ドクッ
ドクッ
ドクッ
と。今、慌てている。心臓が高鳴っている。アイヴィーも妖術は使えるはずだ。
(………!)
そんな時、掴んでいた手が強くなった気がした。それを咄嗟に後ろを振り向く。
体が震えていた。怯えるような目でその男を見る。
爽やかそうな顔とは似つかわしくない、不敵な笑み。
「あ、あの人……」
「知ってるの?」
「う、うん。私を襲いかかってきた人」
その言葉で予想がつく。そんな怯えた目を見ながら、ものすごく震えている。
それを見たヴィーゼは、どうしたら良いのか。ただ、そう思うだけだった。
「たかが幼女のくせに、あいつら負けやがって……」
『ガルルルルっ!』
ルアや周りにいる魔物たちは、酷く威嚇していた。
幼女に関する偏見。小さくて弱い女。負けるわけない。と言う、自信満々な笑みを浮かべていた。
(ふっ、負けるわけねぇ。こんなたかが幼女に)
絶対に負けない。
絶対に負けるわけない。
と。
「大丈夫。アイヴィーさん、“俺”から離れないように」
「………えっ?」
咄嗟に出た“俺”と言う一人称。その事を聞いたアイヴィーは少しびっくりしていた。
“俺”と言う単語。何故、女の子なのに俺と言うのか。それが一番気がかりだったのだ。
俺っ子と言う概念は、異世界にはないはず。そのため、少し混乱していた。
そんなヴィーゼは、ニヤリと口角を開けながら、余裕そうな笑みを浮かべる。
(ふっ、負ける気がしない……。どうせ、“幼女だから負けない”とかなんとか思ってんだろ。だが、俺はそう簡単に負けやしないさ。体力はかなり減っているが、大丈夫。ふっ、目にモノを見せてやる……!!)
魔剣をしっかりと手に持ち、離さないようにする。
「さぁ、始めようか」
「………!」
その異様なオーラに、少しだけ武者震いしていた。
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