50 終盤目前
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翌日———そのまま朝になって再び皇御国を探す。朝日がかなり上り、お昼。ローズ、カメリア、ランスには内緒にしながら、アンナとミラと共に探し続ける。
ヴィーゼは切羽詰まった様子で、皇御国中を模索し続ける。
手探りがないながらも何とか探し続ける。
どうする?
どうする?
という思いで。だが、一番心配しているのは、ミラだ。唯一の親友であるアイヴィーが、未だに侍たちの魔の手から逃れられていない。
ただ、恐怖が。身を襲う。
ただ、混沌が。意識を襲う。
ただ、不安が。全身を襲う。
アイヴィーは、何としてでもここから脱出したい。視界が塞がれ、暗闇に包まれている。
何も見えず、何も分からない。
そんな状況に、陥っている。
(ミラ……)
そんな黒い感情よりも、親友であるミラを心配する気持ちが何より高い。
手足を縛られ、暗闇の一室に閉じ込められ、壁に背中を寄せる。
不安と心配がアイヴィーの心を蝕む。
“ミラは無事なの?”
“ここから出るにはどうしたらいい?”
“助けて”
“ローブを切るには、どうしたらいいの?”
ネガティブ思考に陥る。そう考えるにはいられない状況。冷や汗をかいてしまう。
冷や汗が顳顬から
スッー
と頬を伝い、床へと滴る。
口が塞がれていて、喋ることさえ皆無。心身共に疲弊している体に、さらに追い討ちをかけるかの様に、侍どもが入ってくる。
「んーー!!」
「おい、大人しくしてたか?」
今回は一人。一人の侍が真っ暗な部屋に入ってくる。見た目は爽やかそうな男だが、下衆顔をし、アイヴィーに不敵な笑みを浮かべる。
「ったく、喚いたりすんなよ? また、やってやるからよ……。くくく、ハハハッ、アーハッハッハッ!!」
♢♢♢
探し回る中、俺は一つの可能性にたどり着いた。
何度も使ったことがある、一つの可能性。魔力しか探知できないかと思っていたため、頭の隅から離れていたが、もし、もし妖術も探知できるのなら。
分かるのかもしれない。
(やってみる……価値はあるかもしれない)
今俺は、ミラとアンナさんと分かれて探していた。俺が探しているのは、皇御国にやってきたときに、初めてやってきた団子屋の近く。桜が来た時よりは舞い散っているが、まだピンク色の桜が咲いていた。
本来なら、金を稼いで、団子屋で団子を買い、そして桜が咲いている場所に設置されている椅子に座り、風流でこの光景を見るのだろうが、まさかそれが無くなるとは。
だが、今はそんなのどうでもいい。また来ることができるだろう。
(やってみよう)
『魔力探知』魔力の波動を感知することができる魔法の一種。
それが魔力以外でも通ずるのか。
(あれ、でも普通にミラを見つける時は出来たよね? あー、すっかり忘れてた)
なんかもう、いろんなことが起こりすぎて、頭から本当に抜け落ちていた。
それなら話は早い。
「『魔力探知』———発動」
小さな光が俺の手から出現する。そしてそれは意識的に俺の脳裏に宿る。
脳裏に全体地図の様に、魔力の流れ———もとい、妖術の流れが出現する。
まるでゲーム画面に出現する地図。皇御国の地図が出現する。
(よし、これで分かる。魔力の流れ———妖術の流れは一つの建物まで伸びているな。ここに、ミラの友人で、調合師のアイヴィーさんがいるのか……。急がないと………!)
俺は急いで、この建物がある場所へと急ぐ。
二人に言う暇なんかない。だが、俺の足ではかなり遠い場所にある。
しかも、幼女の姿。一つ一つの足取りが、かなり狭まり、走るスピードが落ちたのはかなりの痛手となってしまった。
「“ルア”頼む!」
『ワォーーーーーン!!』
俺の呼びかけにより、マーナガルムのルアが出現する。街中であるため、かなり目立ってしまうが仕方がない。
羽が生えていないマーナガルムは、空を飛ぶことができない。ルアは使い魔であるから、すぐに召喚できるが、グリフィンの“フィン”は使い魔じゃない。
俺に懐いてはいるが、使い魔の契約をしていないため、召喚するにはかなりの魔力が消費される。
(帰った後は、フィンも使い魔に登録しようかな……。あー、いや、でもそれだったらアンナさんに聞かないとだし)
それは今はどうでもいいとして、急いで行かなければ。
♢♢♢
ルアの上に乗り、風が自然と吹く。
その風がヴィーゼの顔面に当たりながら、『魔力探知』を使いながら、脳裏に浮かぶ皇御国の地図を頼りにしながら、妖術の流れに沿って辿っていく。
そんな所を———彼女らが見ていた。
「ヴィーゼさん?」
「どうしたんだろう?」
「さぁ……?」
団子を食べながら。
♢♢♢
(やめて……やめて………!)
まだ若そうな男が、アイヴィーに襲いかかる。
抵抗も虚しく、声を出すことも。何度も、何度も求められ、そのたびに涙を流す。
涙を流したとしても、何も変わらない。それは分かっていた。だけど、勝手に溢れ出してしまう。
それは、自分の意識と自分の心が合わさっていない様な。
そんな中、二人がある一室の外はやけに騒がしい。
一体何事だ?
慌てる始末。
「チッ、いい所で。………おい! 何の騒ぎだ!?」
アイヴィーの元から去り、一室の扉を勢い良く開ける。広がるは一つの廊下。木で出来た廊下でそのほかの侍たちが慌てふためいていた。
「何の騒ぎだ!?」
「それが! 何者かが侵入した様で!」
「何だと!?」
(………もしかして、ミラ?)
もしかしたら、友人のミラかもしれない。
そんな可能性が高くなってくる。そう思ったアイヴィーはそのまま大人しくしていた。
いや、何も出来なかった。が正しい。
「くそっ! 一体誰だ!? さっさと探せ!!」
「はっ!」
「もしかしたら、あいつらが言っていたやつかもしれない」
(あいつら……? 一体、誰のこと?)
♢♢♢
あいつらとは、朝が明ける前のこと。ミラを誘拐した侍たちのことである。
そいつらは、やってきた仲間に拘束を解かれ、全てのことを話した。その事によって、存在を気づかれた。
『本当なんだ! 嘘じゃない!』
『たかが、女如きで……』
『ただの女じゃない! 甲冑を着た人物で、あれはまるで騎士だ!』
『何!? 俺が見たのはただの幼女だぞ!』
女で騎士だとか、幼女だとか。
皇御国では男尊女卑が行われていた。男が偉く、女が醜い。
男が強く、女が弱い。
そう言う偏見そのものが、皇御国ではあった。
そのためか、“女にやられた”と言う事実自体が、侍たちは受け入れがたかった。
そしてこの爽やかそうな侍は、のちに別の侍に聞いた時「そんなバカな」と鼻で笑っていた。
たかが、女。女にやられるなんて。
と言う、偏見。
だが、この男———まだヴィーゼに会うまではその偏見を持っていた。
そう、“まだ”———。
♢♢♢
「くそっ! やれやれ!!」
「ルア! 頼んだぞ!!」
『ウォーーーーン!!』
一気に攻めかかる侍たち。
それを最も簡単に倒すヴィーゼ。
だが、かなりの数が多く、一人一人相手するにはかなりの時間がかけられた。
魔剣を手にし、それで相手をする。刀と違って、魔法を宿らせることも可能なため、勝機はこちらにあった。
そして皇御国には、魔法使いの概念がない。あるのは、妖術を扱う妖狐族。
後は、巫女。それぐらいだ。
だが、巫女には神秘さと、神聖さが備えられていた。一つ一つの仕草が、目を奪われる様なうっとりとした感じ。暖かな光がやってきた人たちを虜にするぐらい、暖かな光。
その他にも病を治すことも可能だった。そのためか、皇御国の人たちは、巫女を崇拝していた。
だが、それとは裏腹な妖狐族。
妖狐族の妖術は、巫女とは違い邪念な力の様に考えられている。
その光、同じ光だろうと人間と違った見た目をしているため、差別が行われていた。
巫女が神様だとすると、妖狐族は悪魔。
そう考えられている。
「おりゃあ!!」
「邪魔!!」
ルアと共に戦っているが、かなりのウザさ。
次から次へと押しかけ、一人一人相手にしないと確実に気絶することはできない。
そのため、魔剣で何とか先に倒す相手を決めて、戦っているヴィーゼであるが、今までの疲労が全て体にのしかかる。
(くそっ! こんな時に!!)
大事なところで油断する。それが命取りにもなる行為。
(やっぱ、二人を呼んだ方が……。いや、魔剣と魔法を交互に使えば問題はない。えーと、ステータスは……。
名前】ヴィーゼ
【種族】森の民
【状態】ーー
【レベル】60
【HP(体力)】150/1000
【MP(魔力)】980/1500
【固有魔法】
・魔物使役
・鋼線
【称号】
『竜殺し』
体力がかなり少ないのは、自分でも自覚している。だが、魔力はまぁまぁあるな。よし、魔法を使いながらも……いや、でも待てよ。この先のことも考えて、少しは残さないとだ。そうなると、俺の剣の実力を確かめられるな……)
かなり不安だ。前世で剣もとい、竹刀や木刀なんか持ったこともない。
だけど、異世界に来てからこの【マーナガルムの魔剣】は何度かお世話になったことがある。
使い慣れた……と言うのはおかしいと思うが、ほかの剣よりは慣れているはずだった。
「一斉に襲い掛かれ!!」
いよいよ、終盤に着く。
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