45 おじさん意外と弱っちい、それと神聖な薬草のありか
ヴィーゼたちを追いかけてきた、「兄貴」と言われる人物。侍が使う刀を取り出し、構えてくる。銀色に光るその刀。まるで日本刀のようだが、装飾品が全く違う。
(刀……か。念には念を……と言うから、魔剣を用意しておこう)
マーナガルムの魔剣を取り出し、ヴィーゼもその魔剣を構える。後ろにはマーナガルム=ルアの上になっている、狐っ子の少女。
不安そうな顔をしながら、ヴィーゼの後ろ姿を見ていた。
(………大丈夫かな? 私も一応、妖術の準備を……)
——ドゴッ!! ダンッ!! バシッ!!
(………………え?)
唖然としながら、状況を見ているとあっという間に倒していたのであった。
何が起こったのか。未だに分かっておらず、目が点となる。
「な、何が起こりやがったんだ……?」
「………ふぅ、油断禁物。
———『雷の賜物』」
ヴィーゼの白い手からは、雷が出現する。ビリビリッ!と言う音を立て、その雷はガタイのいい男に感電する。
ヴィーゼ自身、ここまであっさりとは思ってなかったが、レベルアップのおかげだと言うことは、安易に想像できる。魔力量、体力。それら全てが最初の程よりも遥かに超えていた。
魔力量が上がると、魔法の威力も変わり、レベル60なヴィーゼは、竜王倒す前の魔法の威力よりも見違えるほど変わっていた。
ある意味、スッキリとする。
「ぎゃあああああああああ!!」
悲痛な叫びをあげ、死なない程度に感電させた。何という速さ。手も足も出さずに気絶した大男は、地面の上で鼻を伸ばしながら、倒れていた。
さて、どうしようか。
このまま放置するのもいいが、せっかくだから木に張り付けておこう。
という思考回路に至る。こういう敵ほど、生命力は高いと考えているため、普通にこのままにしておいた。
(え、あっという間すぎる……)
夢かと思うぐらいの終わりの速さ。少しずつ状況を理解していくが、やはりこの瞬間だけはどうも無理なようだった。
「え、ねぇ、あの人は?」
「うん? あー、眠たいから眠らせてあげた」
すごい意味深なこと言ったようだったが、その子には伝わらなかった。それは良し……としよう。
(流石に苦しい言い訳なような………気のしなくもなくもない)
とりあえず先程の男をそこら辺に生えている、木に張り付け状態にし、ヴィーゼたちがいる場所の奥から、アンナがやってくる。どうやら他の男どもも対処完了だったようだ。
「お疲れ様です」
「あー、うん……。あはは………」
苦笑いを浮かべ、目を逸らした。
(ま、まぁ、あはは……。俺、何もしてないけど)
実質何もやっていない。この男はちょちょっと魔法で気絶させただけであり、そうなる前の男はルアがやったものだと。その事実はヴィーゼの胸の内に留めておく。
「これで全員ですか?」
「あ、はい……。そうです………」
「なるほどねぇ」
よし、退散しよう。
♢♢♢
休暇で来ていたはずが、まさか巻き込まれるとは思っていなかった。
だが、これであの子も安全な仕事だって出来るはず……。
というわけで、俺たちはこの子の家へと足を踏み入れた。皇御国の中央部よりも、かなり端っこ側で人目が付かなそうな場所。
「ハァ…ハァ…」
「お母さん……」
「………君のお母さんは、どうしてこうなったの?」
「………………お母さんは、元々。近くにある湖の管理を任されていたの。その湖には神聖な薬草があるって言われてて、それで神聖な薬品を作って、生計を立ててたんだけど……」
その子の話す内容はこうだった。
その湖に大蛇が前から住み着いてしまい、その大蛇の毒によって体を汚染されたのこと。
蛇に関してはまだ虫よりマシだが、かなり苦手類。それに湖に蛇が住み着くとは、この世界では常識なのか。
それより。その毒は1日1日、ジワジワとこの子のお母さんの体を蝕んでいる。医者に見てもらう資金もなく、父親もいないこの子の家は、この子自身が働きに出ないと無理な状況だった。
「お母さん……」
不安そうな顔で、自身の母親の手を握る。あまりご飯を食べていないせいか、手はやけに細かった。肌もだいぶやばいと感じるくらい、青ざめていて。
「………ハァ…ハァ…」
まともに話すこともできず……。
(………どうしよう……)
こんな状況、生まれて初めてだ。この人を助けるためには、どうしたらいいか。何か効く薬とかあるのか。この世界には疎い。何があって、どんなことが出来るか。
そんな言葉の羅列が頭を回る。
「その神聖な薬草で治すことはできないんですか?」
「出来るには、出来るらしいんですが……」
妙に曖昧な答え。それが一番気になって仕方がない。
「薬草を取ってきても、調合することができないんです。調合は母が得意としていましたから」
その言葉を聞く限り、この子は出来ないと予想はつく。ならば、どうしたら良いんだ……?
「調合が得意な人とかは?」
「それなら、調合師の友人が……」
なるほど。なら、その人に頼めば良さそうだが。
けど、それを言った瞬間、この子の顔が暗くなる。
「どうしたの?」
「ですが、その友人。先程の侍たちの仲間に捕まって……」
「え、もしかして、同じことされたの!?」
俺がそう疑問を投げつけると、小さく頷くのが見えた。
マジか。普通にやばすぎる。
「その子も私たちと同じ、妖狐族です。ですので、かなり人から疎まれていて」
「なるほど、それでかなり煙たがれていたのですね」
(え、そうなの?)
全くもって俺は気づかなかった。
早速、実行開始。今からその神聖な薬草を取りに行こう———。
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