43 作戦失敗
(ふぅ……空間移動でルアを呼び出すか)
ルアと言うのは、俺が使役したマーナガルムのことだ。狼の見た目をして、俺の使い魔となったルア。バレないように空間移動でルアを呼び出し、一応遠いところで待機させる。
(その間に使役できるように構えて………っと)
準備完了。この隣にいる狐っ子の少女の名前は知らないが、ちょっと見過ごせねぇな。
勝手に何人のも女性を弄ぶなど……。このおじさんが説教してやろう!!
(よし、頼むぞ)
「ね、ねぇ、大丈夫なの?」
「一か八かだけどね……。君のお母さんが倒れてるんでしょ? それなら、助けるよ。お金の稼ぎ方はギルドで出来そうだし……。俺も手伝ってあげる」
「…………………」
今一瞬いいこと言ったと思いきや、咄嗟に「俺」と言ってしまった。恥ずかしい。マジで恥ずかしい。
こっちずっと見てるじゃん。真顔で。
「………男の子?」
「違いやす」
男じゃない。前世は男だったけど、今は男じゃない。だからセーフ。
「まぁ、さっきのセリフは嬉しかったけど……」
「えっ?」
その発言で、俺の口から間抜けな声が出た。
集中しないと……。
その思いで再び侍達の方を見る。すると、袋に何か入ったものを取り出す。あれが何か。全くもってわからん。
「あれ、銭入れよ」
「え、あれが?」
銭入れなら、あそこに入っていると言うわけか。やるに越したことはなさそうだ。だが、アンナさんたちに内緒で良かったのだろうか。帰ったら説教を覚悟しておこう。
「じゃ、行くぞ」
「えぇ」
侍たちにバレないように、こっそりとひそひそ話をしながら、俺はルアに合図を送るように魔物使役の力を発揮させた。
『ウォーーーーン!!』
侍たちがいる奥の方の茂みの方から、何かがわさわさと動いていた。そして何かが飛び出す。
「な、なんだ?」
「おい、あの袋はどうした!?」
「え、無くしたのか!?」
(銭の入った袋はこっちだけどね)
侍たちがルアに夢中になっている最中に、銭の入った袋を狐っ子の少女に渡し、俺はルアの上に乗る。堂々とバレてしんぜよう……。
「おい、なんかいるぞ!」
「なんだ? 狼だ!! 狼の上に女が乗っている!!」
「女のくせに生意気だ! ふっふっふ……なら、お嬢ちゃんで遊んでやるよ!!」
(なるほど、こいつらロリコンか)
俺の今の見た目は幼女。仮に俺もあの子と同じようにするのであれば、それはきっと特定の層のファンだろう。
だが、そう簡単に捕まったりはしない。
「行け、『水弾』!!」
「な!? これは妖術か!?」
「くそっ! 全く近寄れねぇ!!」
「どうする!?」
(焦ってる焦ってる……。さてと、そのうちに)
これで勝った。と思ってた。だが、知らなかった。まさか、まだ仲間がいるとは———。
これっぽっちも——夢に思わず。
♢♢♢
「………ぜさん! ………ぃぜさん! ………ヴィーゼさん!!」
数十分ぐらいだろうか。視界が暗いことに気づく。そして誰かに名前を呼ばれている気がしてくる。
頬が冷たい。うつ伏せになっていることがわかる。
「………あ、あれ」
「ヴィーゼさん! 大丈夫ですか!?」
まだ意識が混濁していた。ヴィーゼの視界ではまだグラングランの状態で、アンナのことを見ていた。
切羽詰まったような声色で、アンナの瞳には僅かだが粒を浮かべていた。
「アンナ………さん?」
「はい、アンナです! それにしても、どうしたんですか? こんな所で」
起きあがろうとすると、何故か頭が痛む。咄嗟に後頭部を押さえながら、体を起こした。
先程まで一緒にいたはずの、狐の女の子やルアが居ない。一体どうしたのか。
「………!? まさか!!」
最悪な状況を想定してしまった。あの狐の女の子とルアは、侍たちに連れて行かれた……。そう考えるのが今は妥当なはずだ。
だが、ヴィーゼはどうして自分が気を失っていたのか。それが一番の気がかりである。
頭に少しばかりの痛み。と言うことは、何者かに頭を殴られた。と言うことなら、納得がいく。だが、誰に。一体、どんなもので?
それが一番の疑問点。
「早く行かないと、また!」
「行くって、どこにですか?」
「一緒に温泉に入ってた子を助けに行かないと! ルアもいないし……」
「え、それって本当ですか!? と言うことは、ここでヴィーゼさんが倒れていたと言う理由も………」
「あぁ、関係している」
徐々に視界が開け、アンナの姿を見た。アンナの姿は先程までとは違った格好をしていたが、それは旅路での事。王国内でよく見る甲冑を着た騎士モードのアンナだった。
顔から物語っていた。ヴィーゼを心配していたと言う物語ったことが。
「でも、一体どこに」
「それなら、平気。『魔力探知』で探せる」
この状況で笑んだ笑みは、全てドヤ顔に見えるのは末期か。対策方法を見つかり、後は探すのみ。心の底で祈る。無事であるように———と。
一方、狐っ子の少女がいる場所は。
「ったく、手こずらせやがって」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。兄貴」
「ふっ、まぁそうだな」
「これからどうしやす? 兄貴」
「あのガキは?」
「見事に気を失わせました」
「なんだと!? 息の根を止めろと言っただろ!!」
そんな話し声が聞こえていた。怒鳴るような声。だが、そいつらは狐っ子の女の子を方を見ると、にやけるように微笑んだ。
「で、また頂いていいんすか?」
「あぁ、好きにしろ」
その子は抵抗できず、口にロープで結ばれ、声を出せず、両手もロープで巻かれており、抵抗することができない。
少しずつ近づいてくる奴らに、後ずさることもできず、ただ心の中でずっと助けを求めていた。
「えっへへへ」
(いや……いやよ……。なんで、こんな奴らに………二度も………)
気持ち悪い笑い声を発し、とうとうその子の足を掴む。少しずつ開き、後ろからは別の男がその子をハグした。
(いや………もう………これ以上は………)
目頭には大粒涙を浮かばせ、足を少しずつ開かせ、手で抑えようにもそれができず、汚い手でハグされ、耳や首筋には息遣いが荒い男の吐息が来る。
(………………助けて。誰か………)
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