41 温泉って気持ちいいよね
「———ちょっと、どう言う意味!?」
突然、そんな声が聞こえた。戸惑いの声が大きく響き渡り、周りを通っていた人たちが、足を止めた。俺たちもその声に驚き、その方向を見た。
その方向にはでかい狐の尻尾が生え、頭には狐の耳が生えていた。獣人か、何か…だろうか?
初めて見るその種族に、驚きとワクワクが隠せない。
心が躍っていた。まさに純粋な子供のように。
まさか俺に、こんな純粋な気持ちが未だに残っていたとは…。少々驚く。
(へぇ、狐の人……)
誰かに怒鳴っているようであり、一体どんな理由か。それは声が聞こえるだけの距離にある俺たちからしたら、検討もつかない。
男性に怒りを露わにしているように見えるが、一体どんな話をしているのか。
周りから注目されていると、視線でわかったのか。それ以上の追求をしなかった。
その日は後にし、時間が過ぎ、夕暮れ時となる。旅荘の方へと戻り、自分達が泊まる部屋に直行した。それから数時間が経過した後、夕食の時間となった。
豪勢な夕食であり、どれも全て和食。日本人の俺からしたら、ありがたい。
正座して座り、お米を食べる。この世界にお米があることは知っていたが、なんともツヤツヤしていた。
その次に味噌汁を一口飲んだ。温まる。心の芯まで温まるような気がしてくる。
他にもおかずとして焼き魚も置かれており、見慣れた光景の食事。コップを手に持ち、口へと運ぶ。
ズズー
と言う音を立て、一気飲みした。抹茶の味が安心感を与えるような、何度も味わったような。そんな感じがしてたまらない。
♢♢♢
カポーン
と言う音が鳴りそうなこの空間。夕食を食べ終わった俺たちは、そのままお風呂へと向かった。
幼女の体として、自分自身の体を見るのは抵抗が無くなってきたが、やはり。同性ともなればお風呂は一緒に入る。その為か、下手に緊張していた。
(お風呂は気持ちいい……。気持ちいいんだけど………)
「あははっ! シャンプーで遊べるよ!」
「もう、カメリア…。遊んじゃダメでしょ」
「アンナ見て! 泳げるわ!」
「お嬢様、温泉で泳いではいけませんよ」
そんな見慣れない光景が、なんとも言えなかった。自分自身に幼女、幼女、幼女……と暗示をかける。
だが、見慣れない光景をそう簡単に慣れさせるのはかなり大変だった。
カメリアとローズは体を洗い、シャンプーやリンス、ボディーソープで体を洗いながら、泡で遊んでいた。
ランスはお風呂の中を泳ぎ、それをアンナさんが注意する。
何故だが集中できない。異世界に来て約10年。この体にも慣れたはず。なのに、なぜだ。なぜか、緊張する。
そんな時、温泉の扉が開いた。そこから今日怒鳴っていた獣人の子が一人、入ってくる。
タオルも何もつけないで、堂々と入ってくる。
俺は、大丈夫だろうか? もし、異世界に転生したときに生前のままだったら……。
もしくは、生前の若いときだったら……。
多分俺、死んでる。
(やば、考えただけで寒気が……)
と言うより、今の俺の体は色白すぎないだろうか?
自分自身の体をもう一回見る。お湯を掬い、手の肌の色などを見ると、やはり色白だ。
温泉に入ってから、1時間が経過していることに気づく。いつまで泡で遊んでいるのだろうか。あの二人は。
と言うか、いつまでお湯で遊んでいる?
よく疲れないな。
俺の中には未だに男としての概念が存在していた。その為、この光景に違和感を覚える始末。そしてこの空間に1秒でも早く抜け出したい。
そう、簡単に抜け出せたらの話。
「ヴィーゼさん、見てみて!」
「どうしたの?」
カメリア達から呼ばれ、俺はお湯に入っていた体を立ち上がらせ、二人の場所まで行く。
すると、一つの個室のようなものがあった。温泉にあり、個室のようなもの。サウナだろうか?
「これなんだろう?」
「サウナじゃない?」
「サウナ? なんですか? それは」
俺の答えに疑問をぶつけた。生憎と俺自体温泉にあまり行ったことがない。サウナなんて入ったこともないし、どう説明すれば良いのか。
「えぇと、汗をかくやつ」
もう適当。二人に本当かどうかのことを教えると、颯爽と入っていく。
のぼせない様に釘付けしておこう。
「のぼせない様にね」
「「はーい!」」
なんだろう、子供に言う親の気分。
あの二人はどっちかっていうと子供だ。我が子の様な愛情を感じさせる。
いや、そもそも獣人だから?いや、違うか?
どっちかって言うと、猫や犬を飼うときの、家族の様な感覚だ。
どこか、心のどこかが暖かくなり、どうも不思議な感覚に包まれる。
(先にあがろう)
体全身が暑い。まるで炎天下の下にいるかの様に、汗が吹き出していた。
温泉から出た後は、コーナー牛乳を飲んだり……と思ったが、コーヒー牛乳という概念があるかどうか。
怪しく感じる。ひとまず、出よう。
暑すぎる。このままじゃ、のぼせて倒れてしまう。
タオルでしっかりと体を拭く。このペチャパイボディーの体は、何度も見た。
早く服に着替えて、外へ出る。
コーヒー牛乳はなかったが、牛乳だけは売られていた。まるで一人だけ日本に帰った様な気分となる。と言うより、外見などが日本にある旅館にそっくりだ。内装と言い、どこか日本っぽさを感じる。
(ん? なんだあれは)
旅館の中には一つの像が置かれてあった。
その像の下には名前が書かれてあった。この旅館を創設した人物の名前が。
“菊池雄一郎”
しっかりとその名前が書かれていた。
これを見た瞬間、目を疑いたくなる。これはまさに、日本の姓。この人は異世界へ来たことがある?
頭がこんがらがる。だが、勇者召喚によって呼び出されたのなら。説明はついた。
勇者召喚によって来た菊池さんが、異世界で住むこととなり、旅館を創設した。
と言うと辻褄は合う。
あれ、なんか探偵みたい…。
少し自惚れてから外で涼んでいた。思いのほか、結構のぼせていた。
「うん、眠い」
温泉の暖かさでか、眠気が襲ってくる。
全身ぽかぽかな為、今すぐにでも布団にダイブしたい。
「ねぇ、あなた」
「……ん?」
突如、声をかけられた。その方向を振り向くと、先程の狐っ子の人が立っていた。
俺に何の用なのか。検討もつかないが、とにかく話してみることにした。
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