37 蟷螂の斧
マーナガルムの魔剣を手にし、時間稼ぎをする俺は、他の魔物たちと力を合わせて【破滅竜】と【竜王】の称号を持つ、ロヴィーナを相手にする。
気迫があるこの瞬間。足がすくみそうになるが、勇者が来れないのなら、俺がやるしかない。
理由?そんなの簡単。一度は勇者になってみたいじゃん!!
勇者に憧れ、強きものを倒す。そんな勇者に憧れていた。
そんな俺からしてみると、この機会は絶好のチャンスと言っても過言ではない。
今この瞬間こそが、俺の追い求めていた瞬間でもある。
そう考えてくると、心臓の鼓動が早く脈を打つ。
———ドクン、ドクン
張り裂けそうなこの思い。そして冷や汗が顳顬から伝い、頬へと渡っていく。
魔剣をしっかりと両手で持ち、持ったことのないこの重量を感じさせる。重たい。これを勇者達は必死に持ち、そして戦うのか。
そう考えるとどうもワクワクしてくる。勇者がいないのなら、誰かが勇者になればいい。
「だぁ!!」
地面を思いっきり蹴る。
俺の放った氷攻撃が効き、まだ地面へと居座っているロヴィーナ。
その隙を狙い、ロヴィーナとの高低差が空いた。
そこを狙い、マーナガルムの魔剣を大きく振り落とす。
『ギャオオオオオオ!!』
幼女の体ではかなりの重量は限界がある。
今でも力を精一杯放ったかのように、気疲れする。
だが、やはり。魔剣だとしてもロヴィーナの鱗はとてもじゃないが、固すぎる。
魔剣の刃をもろとも食らっても、全く歯が立たない。
(くそ、流石にこの体じゃ無理か? だが、大蛇と竜王、どちらかを選べと言われたら、答えは簡単)
——もちろん、ロヴィーナを選ぶ。何故なら、“竜だから。
俺の嫌いなものは虫と蛇など。あいつらはほんとお断りしたい。虫の中に関しては、ゴキ◯リ、蜘蛛、蜂。あいつらは本当に無理だ。
『ギャオオオオオオ!!!』
雄叫びを上げながら、翼を羽ばたかせる。それで起こった強風が巻き起こる。山に生えている木が強風で荒々しくなる。
轟々と音を立てながら、唸っているように聞こえる。再びドラゴンの得意分野である、空中戦。こうなった場合、魔法で撃ち落とさないと、どうにも出来ない。
だが、魔力は無限じゃない。魔力は有限。魔力切れになれば、確実に詰みだ。だが、魔物達が力を合わせてくれている。
「ふぅ……」
一息、息を吐いた。集中せざる終えない。今目の前にいるロヴィーナに集中する。意識を深く集中させる。
少しずつ、自分の鼓動だけが聞こえてくる。先程まで聞こえていた魔物達の鳴き声。それが全く聞こえなくなってくる。
———ふぅ、集中集中…。
やったろうぜ!と言う気持ちをグッと堪える。
集中を乱せたくなかった。それが一番の理由だ。
意識全体を集中させる。今体内にある魔力全部を、手に集中させた。
魔力が手から伝わり、魔剣に注ぎ込まれる。飛んでいるロヴィーナに一歩近づく為、右足を前に出す。
それと同時に展開される魔法陣。紫色の光が神々しく光る。体全身に伝わる、その活気。
「行け。———【毒刃】!!」
目の前にいる強靭な体を持つ、ドラゴン。固い鱗を持つ体に攻撃を放った。猛毒を纏った魔剣を振り翳し、紫色の刃がロヴィーナの元へといく。だが、それを跳ね返した。
強靭な体は毒の塗られた刃をも跳ね返す。これは困った。
(くそ、だめか……)
体内にある魔力がほぼ枯渇した。最悪とも言えるこの状況。
———どうしたらいい?どうすればいい!
別の意味で心臓がバクバクする。時間稼ぎはした。あとは、騎士団が来るのを待つだけ。
だが、まだ魔物達が戦っている。あきらめると言う言葉を知らないようなほど、気合満々となっていた。
「まだだな……」
ほぼ魔力が枯渇している状態。MP10ほど。もう使える魔法と魔力がない。
どうしたらいい?どうすれば……。
困惑状態に陥る。再び冷や汗が顳顬から頬に伝っていく。
魔剣を両手でギュッと握り、ロヴィーナは炎のブレスを吐く。
その攻撃を躱す。炎のブレスが山全体に広がり、炎が一瞬のうちに広がった。
「くそっ! しまった!!」
周りの木に次々と炎が回る。山火事になったら、まずい。不味いことに越したことはない。
最悪だ。最悪すぎる。
近くには村がある。ミデール山に存在するミデール村。あそこには村人達が存在している。
このままだったら、ジリ貧だ。どうする事も出来ない、このままだったら———。
———そう。このままだったら……。
♢♢♢
山を登る騎士団達。山には轟々と栄える炎とその煙。騎士団達の間には、重たい空気が流れる。一緒にやってきたローズとカメリアは不安そうな顔を浮かべる。
2人の心の中には、黒い渦が巻き起こる。不安と、心配。ヴィーゼはどうしているのか?そればかりだった。
「早く行かないと!」
「えぇ、あそこにヴィーゼさんがいるのですよね?」
「はい! そうです!」
2人のその言葉にアンナは騎士団達ともに、その場所まで慎重にいく。黒煙が上る。炎は一斉に広がり、騎士団は二手に分かれた。
竜王・ロヴィーナを倒すための班と、ミーデル村の救助に行く班と分かれる。
アンナ達の目前に見えるのは、竜王・ロヴィーナと戦う魔剣を持ったヴィーゼと、その周りと共に戦う魔物達。
その光景に違和感を覚えるアンナと騎士団達。そして、ローズとカメリア。
「くそっ!」
マーナガルムに乗り、ロヴィーナとの高低差を何とかして縮める光景。
ヴィーゼの横顔からは、綺麗な肌色がオレンジ色に輝く。そしてヴィーゼの目からは、敵対心が溢れ出ていた。
「———よし。騎士団、私たちも竜王・ロヴィーナを倒すため、ヴィーゼさんに協力するわよ!!」
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