漫才「事故物件」
AB「どうもよろしくお願いします」
A「あのー最近自宅の雨漏りがひどいから、新しい家に引っ越したいと思ってるんですよ」
B「家はもう決まってるの?」
A「それがなかなかいい物件を見つけられなくて」
B「それなら俺に任せてよ。不動産屋の知り合いから、いい物件をいくつか教えてもらってるんだよ」
A「じゃあおすすめの物件を教えてほしいな」
B「もちろん。まず一軒目なんだけど、これは都内のアパートで、ちょっと古いけど駅から徒歩五分のところにある」
A「めちゃくちゃいいじゃん」
B「しかもバストイレ完備の1LDKで、家賃五万円」
A「家賃も安くて良心的だし。もうそこで決めちゃおうかな」
B「でも一つだけ欠点があって、実は事故物件なのよ」
A「事故物件?あのお化けとか幽霊とかが出るっていうやつ?」
B「そうなんだよ。だから家賃がこんなに安いんだよ」
A「えー怖いもの苦手だから嫌だよ。そもそもどうして事故物件になってるの?」
B「それが十数年前にこの建物で殺人事件が起こって」
A「うわ」
B「その火事で逃げ遅れて多くの死者が出たという」
A「うわうわ」
B「大学の女子寮」
A「え、女子寮?」
B「うん、女子寮」
A「あ、そこで決定しました」
B「本当に大丈夫?怖いものダメなんじゃないの?」
A「でも前は女子寮だったんだよね?生身の女の子がそこで生活していたってことだよね?」
B「まあそうだけど」
A「あ、そこで決定です」
B「本当に?なんかいかがわしい理由で決めてない?」
A「ちゃんと公平に選んでるよ。というかその部屋には幽霊が出ることもあるんでしょ?」
B「事故物件だから、その筋の話がないわけではないけど」
A「女の子の霊もワンチャンあるな」
B「もしかして出会い期待してる?そんなワンチャンはないから」
A「もっとその物件のこと教えてくれよ。早く!早く!」
B「急に前のめりだな。前住んでた住人の話によると、よく心霊現象が起こったらしいよ。例えば、シャワーを浴びてたら背後に人の気配を感じるらしい」
A「風呂にまで入ってくるなんて積極的な子だな。俺は大歓迎だよ」
B「幽霊をいやらしい目で見るなよ、気持ち悪い。他にも夜ベッドで寝てると、カサカサって物音がして、目を開けると体が動かなくなったり」
A「ベットで添い寝もいいな。夢がある」
B「ホラーをロマンチックにするなよ。金縛りなんだからそれどころじゃないし」
A「それってつまり、動けなくなるほどきつく抱きしめられるってことだろ?」
B「いいように解釈するなよ。女の子はまったく登場しないから」
A「ますます気に入った。もう購入しちゃおうかな」
B「もっとたくさんの物件を見てからの方がいいと思うよ。とりあえず別の物件の話も一応言っておくけど……」
A「待って!さっきのドリームハウスの話をもっと聞かせて」
B「どこがドリームハウスだよ。こんな話聞いても意味ないだろ」
A「いいから早く!早く!」
B「だから前のめりすぎるよ。他にもどこからともなく女の子の恨めしい声がしたり。どうして助けてくれなかったの……って」
A「メンヘラちゃんか。嫌いじゃないな」
B「は?」
A「死んでも彼氏が好きで離れられないんだろ?愛が強いなんてうらやましいね」
B「憧れを抱くな。それにこの物件の怖い話はこれだけじゃないんだよ」
A「他にもボーナスが?」
B「心霊現象が。実はもっと昔、江戸時代にもここで火事が起こったんだ。そのとき一人の武士が切腹して亡くなった。だからその落武者が、今でも部屋に現れるらしい」
A「チッ、男いるのかよ」
B「は?」
A「確かに怖いな。恋敵がいるなんて聞いてなかった」
B「何に怯えてんだよ。俺にはお前の方がよっぽど怖いわ」
A「落武者が出るのはマイナスだけど、全体的に賑やかでいい物件だな」
B「あんまりいい賑やかさではないけどな」
A「というわけで買いま……キープ!」
B「それが言いたかっただけだろ!もういいよ!」