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世界は廻る

作者: 七四

世界は何故繰り返すのか──


『──へぇ!そうなんですね!』

『えぇ、この名前しかない、と感じたんです』


 テレビから聞こえてくるのはややオーバーリアクション気味なアナウンサーの声と、少し自慢気に見える世界的に有名なとある開発者。


『この“ググル”はそうやって作られたんですね!』


 そう、世界的に有名な検索エンジン。それを作ったのは今テレビに映っている明らかに日本人顔の男。


『これからも更なる改良を目指していきたいと思います』


 俺はその言葉を白けた気分で聞き流す。


──パチモンじゃねぇか。


 勿論、パチモンなんかじゃない。……今の世界においては。

 もし、この“ググル”を使って“Go○gle”と検索したとしても、そんなサイトは出てこない。


 当然だ。今の世界に、“G○ogle”なんてないのだから。


 この世界において、世界的検索エンジンを作ったのはアメリカ人ではなく日本人で、“ググル”なんてパチモンみたいな名前が当たり前のように受け入れられている。

 いや、当たり前のように、ではなく、当たり前なのだ。


 おかしいのは、俺。


 正確には俺の記憶だが。


 俺は知っている。この世界とは同じ、しかしどこまでも別物な世界を。

 俺は知っている。この“ググル”とやらと同じ、しかし何か違うGo○gleというものを。

 俺は知っている。この日ノ本と同じ、しかし異なる日本を。


 俺は、転生者……ではない。

 その表現は、適切ではない。


 俺は、輪廻の不具合(バグ)だ。



…………………

……………



 いつから、ということはない。

 物心がつき、自分がこの“俺”であると同時に、“俺”であることもすんなりと受け入れた。


 他人の体にそんなに馴染めるのか、と思うかもしれない。しかし、違うのだ。他人ではあるのだろうが、前の“俺”も今の“俺”も、どちらも俺なのだ。


 これは、過去も現在も受け入れた、といった話ではない。


 言葉通り、前も今も、俺は“戦場いくさば 輪生りんせい”という一人の人間だったからだ。

 同姓同名、ということじゃない。家族も、皆同じだったのだ。


 正真正銘、同一人物。


 だが、家の位置は若干違うし、知らないクラスメイトも数人いる。まあ、他のクラスにいたような気がしなくもないが。

 お陰で、何も困らずに前の“俺”と同じ生活ができている。


 だが、社会は言わずもがな、俺の知るものとは大きく違う。


 先程の“ググル”なんてマシな方だ。

 どれも似たようなものを見たことはある気がするが、名前は全く聞き覚えがない。


 普通名詞は全く変わっていないが、固有名詞がいろいろ変わっている。訳がわからない。


 では、何故“ググル”は前の“俺”の記憶に近いのか。


 それは、あの開発者も、軽度の輪廻の不具合(バグ)だからだ。


 大した記憶は残っていない。しかし、僅かにこびりついた記憶の断片が残り、それをそのまま利用している。

 別に犯罪ではない。この世界にそれはないのだから。


 この世界で、前の“俺”の記憶と少しでも合うものは大体この軽度のバグ──輪廻の欠片(穴抜け)が作ったものだ。


 まあ、ごく稀に偶然一致することもあるが。


 とはいえ、欠片は欠片。完璧には程遠い。むしろ、完璧ではないが、中途半端にある記憶のせいで、本物に寄せることは難しい。


 しかし、この世界にもあるのだ。前の“俺”の記憶と寸分違わぬものが。


 まず、歴史は大して変わっていない。多少時期の変化や、偉人が一部知らない顔だったが、その出来事による影響などは大して変わっていなかった。


 身近なものとして気づいたのは、とあるFPSバトルロワイヤルゲームだ。世界が多少変われど、こういったゲームはあるものか。


 そのあとも様々なパチモンとまんまなものに出会ったが、俺は気づかなかった。


 俺が“それ”に気づいたのは、あるネット小説。


 前の“俺”のときから、マイナーではあるが、好みだったのでよく読んでいた。その小説も変わらなかったので、続きが読めると喜んだものだ。


 その小説の作者が、あるとき、短編を作った。

 一人の男が死に、その後、どこか異なる世界で、自分自身に転生した。男は変わったようで変わらない世界に退屈したような、失望したような感覚を覚える。

 そんな話だ。


 俺は、何故か分からないが確かめないといけないと思った。

 読んだあと、すぐに作者のSNSアカウントにDMを送った。なお、この世界にTwi○terも、そのパチモンもなかった。


 送った文面は、多分ぐちゃぐちゃだったと思う。俺に文才はそもそもないし、この世界に仲間がいるのかもしれない、と思いかなり慌てていたから。


 返ってきたのは、簡潔なものだった。


『会えてよかった』


 今思えば、ネットで知り合っただけの人物にいきなり会うのは軽率だったかもしれない。

 だが、言い様のない不安感に駆られて、そのときの俺はそこまで思慮が及ばなかった。


 その後会ったのは、二十代の男性だった。極普通の、どこにでもいそうな男性。まあ、俺も平凡なので、輪廻の不具合(バグ)だからといって特別な訳ではないのだろう。


 その場で、その方と暫く話をして、色々なことを教わった。


 記憶を持つ人達は、自分たちを輪廻の不具合(バグ)と呼んでいること。

 中途半端な記憶しか持たない人を輪廻の欠片(穴抜け)と呼んでいること。

 この世界には少なからず輪廻の不具合(バグ)がいること。

 中には、幾度の生を越えた──二度以上の生の記憶を持つ輪廻の不具合(バグ)がいること。

 そして──


 この世界は、廻っていること。


 今のご時世、人も、物も、金も、様々なものが世界を回っている。

 それだけでない。魂も、時も、全てが廻っている。


 この世界は繰り返しているのだ。無限の生と死を。再生と崩壊を。


 多くの人は知らない。その輪廻を。

 誰も知らない。その理由を。


 俺は、まだ二度目だ。次があるのかもわからない。

 だが、惰性で前の生を繰り返すだけの日々を過ごしている。


 世の中の、どれだけの人間が、この繰り返しに気づいているのだろうか。


 どれだけの人間が、同じことを繰り返しているのだろうか。


 どれだけの人間が、繰り返される愚かさに気づいているのだろうか。


 どれだけの人間が、愚かさに気づき、乗り越えているのだろうか。



 世界は、廻っている。


 この世界の不具合バグとは、なんだろうか?


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