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クランのその後

 アルト達を追放してから、数日が経過したが、レオの怒りは『収まる』という二文字を知らずにいた。

 仮に収まったとしても、夢であの時の光景がフラッシュバックして、怒りや苛立ちが再燃するのだ。


「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!」


 息を荒げて、張り裂けんばかりの声を挙げる。レオは自分の部屋でもある、執務室の机に置かれてあるモノを全て、床にかなぐり捨てた。

 ガシャンと言う金属音と、それ以外の音がその場に響き渡る。


 現在、レオの胸中は、憤怒と言う名の赤くてドロドロしたもので一杯だ。

 モノに八つ当たりしても、怒りは晴れない。むしろ、音が反響し、五月蠅くなってしまったせいで、余計に悪化してしまったかもしれない。


「ああ、クソがぁ! この、俺に、恥を、かかせやがって‼」


 赤髪を乱暴に掻きむしる。

 壁の傍に建てられていた石像を倒し、その顔面を力いっぱい踏み付ける。石像をノエルに見立てているのだろう。

 恥を忍んで、クランを抜けないで欲しい、と頼んだのに抜けられる始末。

 屈辱以外の何ものでも無いだろう。


 もっとも、アレを頼んだ、と認識するのはいささか無理があるが。レオの中では頼んだ、と言う枠組みに位置する様だ。

 と言う訳で、現在、そんなちっぽけなプライドは、ズタボロになってしまっている。

 

 因みに、レオの職業は、世界でも数人しかいないと言われている『勇者』だ。

 であれば、その恩恵はトンデモナイものになっていく訳で、石像はその面影を残す事無く、容易く砕け散ってしまう。

 辺りに砂埃が舞う。


 それを、八つ裂きにされるノエルに照らし合わせたのだろうか。少し満足気に、それを眺めていたレオ。

 溜飲は、少し下がった様だ。

 しかし、明日になれば、また同じことを繰り返す筈だ。

 不意に、執務室の扉がコンコンとノックされる。ぐしゃぐしゃになった赤髪を整えながら、


「入れ」


 レオの言葉で、扉を開けたのは、幼馴染のサーシャだった。

 海色の髪が少し揺れる。


「失礼します。冒険者ギルドから依頼された、黒龍討伐の件なのですが……」

 

 そこで、一旦話を切る。

 穏やかそうな顔をしているが、そこには明らかな戸惑いが、色濃く表れている。しかし、そんな事には気が付かないレオ。

 中々次を口にしないので、少し苛立ちを込める。


「どうした、さっさと用件を言え」

「その……遠征に行く為の支度をしたくない、と言っているメンバーが多すぎて、このままでは黒龍討伐に行けなくなるかもしれないのですが、どうにかなりませんか?」

「……は? 何だ、それ?」


 冒険者ギルドから依頼された、黒龍の討伐。

 レモナスの霊峰と呼ばれる山脈の、その天辺に存在している洞窟。その中の、さらに最下層の水晶の迷宮の中に、ソレは潜んでいる。

 まだ実害は出ていないモノの、発見当時余りの気性の荒さから、やがてはアーデルハイド王国の脅威になりえると考え、冒険者ギルドから討伐対象に指定された。


 しかし、そこに辿り着くまでにも、黒龍には劣るモノの、強力な魔物がうようよと住み着いている。

 当然、並み大抵の冒険者達では攻略が難しい。

 そこで、数年余りで指折りの一本を担い、尚且つ一度も失敗したことが無い『赤竜の鱗』が選ばれたと言う訳だ。

 だと言うのに、


「どうして、準備が遅れてるんだよ! 黒龍の討伐は明後日だぞ! 分かってんのか、テメェ!」

「いえっ、私に言われましても」


 サーシャ曰く、こんなのは自分達、冒険者のする事じゃない。前は、あの『荷物運び』がやっていたのだから、自分たちがしなくても良い。

 と言うか、さっさとあの『荷物運び』を呼んで来い。

 と、『赤竜の鱗』の面々は主張していた、とのこと。


「チッ! 面倒くせぇな。まあ、丁度良い。おいサーシャ。アルトのクソを連れ戻して来い」

「え? いや、ですが……つい最近に、追放したばっかりですけど」


「そこは嘘でも、でっち上げでも、何でも使って連れ戻せば良いだろうが! そうすりゃあ、後はこっちのもんだ。荷物の準備とか、その他の雑用は全部アイツに任せれば良い。テメェの頭は湧いてんのか! アァ!」

「いい加減にして下さい、レオ! 幼馴染でしょ! 大切な仲間だったでしょう! どうして、貴方はそんな酷い事が言えるんですか!」


 もう我慢の限界だ、そう言わんばかりに、胸に溜め込んでいた思いをレオにぶつける。が、そんな思いはレオには届かない。

 サーシャを射殺す様に睨みつけて、レオは幼馴染の鳩尾をぶん殴った。


「勇者」の職業を持っているのだ。

 殴られた瞬間、鳩尾に衝撃が走り、そのまま吹っ飛ばされる。

 鈍い音が響き、そのまま壁に打ち付けられる。


「……ゴホッ!」


 まさか、殴られるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開きながら、サーシャはそのまま地面に倒れ伏してしまう。

 それでも、まだ生きている。


「お前、誰に命令してんだよ?

 今、お前の目の前に居るのは『赤竜の鱗』のクランリーダー、レオ様だぞ。

 俺はさぁ、今虫の居所が悪いんだよ。ノエルのアバズレのせいで、俺のプライドはズタズタだし、アルトのゴミは一回追放したのに、もう一度連れ戻さないといけないから面倒くさいからイライラしてるし。

 しかも、その上命令? アルトを、あのゴミを労われってか? 馬鹿言うなよ。アイツは『荷物運び』だぜ。クソにも役にも立たない、クズなんだよ。

 逆に、俺達のクランに戻らせてやるんだ。もっと、俺達の為に頑張ってもらわないと割に合わないよな? なあ、お前ら」


「ええ、そうっすね」

「マジで、その通りですよ」

「本当に、レオさんの言ってることは、正しいに決まってる。俺達のクランに戻らせてやるんだから、馬車馬の様に、もっともっとこき使ってやらないと」


 気が付くと『赤竜の鱗』のメンバーの大半が、執務室に集まっていた。

 レオに抗議でもするつもりだったのだろうが、全員が全員、レオの提案であるアルトを連れ戻す事に賛成していた。

 しかし、ソレは彼の実力を認めた、からでは無い。

 

 役に立たないと思っていたけど、捨ててから意外にも役に立つことに気が付いた。だから、しょうがないから拾って、また使ってやろう。

 今度は壊れるまで。

 と言う、なんとも上から目線な物言い。


 一体、自分達を何だと思っているのだろうか。『荷物運び』だからと言って、その人の権利や主張を蔑ろにしていい訳が無い。

 そう言おうとするが、幾ら口を開いても、声は出ない。打ち所が悪かったのだろうか? そんな考えをよそに、段々と意識は沈んでいってしまう。


 サーシャは目の前に広がる光景を、痛みに耐えながら見ることしか出来なかった。狂気じみた笑いが聞こえる。醜悪な意見が飛び交う。けれど、力が出せなければ、声も出ない。だから、彼女にソレを止める術は無い。


――御免なさい。――お願い、アルト……逃げて。


 そう心の中で念じて、サーシャは気を失った。

 その後『赤竜の鱗』のメンバーを総動員させ、アルトの捜索に当たったが、アルトをクランに連れ戻す事は愚か、見つけることすらも出来なかった。

 

 それでも黒龍討伐のまでの日時は進み、明日となる。

 未だに、メンバーの面々は、準備と支度に手間取っている。恐らく、見つかりもしない『荷物運び』を宛にしているのだろう。


「面白そう」「次に期待しよう」「ふーーん、まあ良いんじゃね」と思った方は、ポイントよろしくお願いします。それだけでも、励みになります。

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