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これからのお話

「……結局あれは何だったんだ? 手は無事か?」

「それはこっちが知りたいわよ! 手は無事だけど……って、距離が遠い! 私を避けるな!」


 場所は、『黒猫亭』。

 不満げに、耳をピコピコと動かしながら、ノエルはそう叫ぶ。


「いや、流石に俺もあんな目に遭うのは……ちょっとね。怪我をしたり、宿の壁を壊して、弁償するのも嫌だから」

「うん、歯を食いしばりなさい」


 髪の毛を逆立てて、鉄拳制裁――尚、アルトは吹っ飛ばされなかった――を喰らい、アルトは渋々ノエルの近くに寄る。

 何故か顔を赤くしており、一体どうしたのだろう、と首を傾げながら。


「結局、収穫は無かったし。やられ損だよな」

「仕方ないんじゃない? 話を聞こうにも、伸びてて使い物にならなかったし……だったら、もうちょっと殴っておけば良かったかしら?」

「あんまり、物騒な事言うなよ」


 結局、あのゴロツキ共は憲兵所に突き出した。

 本来であれば、アルト達にも疑いの目を向けられるのだが、そのゴロツキ共は沢山の問題事を起こし、前々から目を付けられていたらしく、事情を説明するとすんなり納得してくれた。


 それでも、取り調べやら何やらがあったせいで、いつの間にかもう朝だ。

 全くいい迷惑である。


「誰がやったのか分からないけど、恐らくはアンタを恨んでる奴の差し金ね」

「まあ、本人達もそう言ってたし……」


 アルト達含める『荷物運び』は、冒険者から忌み嫌われている。それは、恐らく自身の予想をはるかに上回る位に。


「だけど、どうして俺なんだ? 俺って、自分で言うのもアレだけど、何にも問題は起こしてないぞ。至って普通だと思うけど」

「多分、そうだからじゃないの?」

「ん? それは?」


 露店が開いていたので、その時に買ったサンドイッチの封を開けながら、ノエルは丁寧に説明してくれる。


「アルトってさ、『荷物運び』でしょ。本来は、冒険者に劣っていて、冒険者から見下されないといけない存在。それが、冒険者達の認識な訳」


 ノエルはそうは思っていないのかもしれないが、大半の『冒険者』の認識は、そんな感じだ。汚物を見る様な目で見られるのも、あまり珍しい事でも無い。

 サンドイッチを手渡され、それを受け取る。


「だけど、アルトは前まで『赤竜の鱗』に所属していた。これが何を意味するか分かる?」

「え? それはまあ、冒険者たちが憧れてやまないクランに所属してんだ……あっ、成程」


 何を言いたいのか分かった。


「つまりは、そう言う事よ。本来であれば、『荷物運び』がクランに所属してるなんてありえないのよ。自分達より劣ってるのに。なのに、アンタはクランに加入していた。となると、アンタは大半の冒険者よりは凄い、って事になってしまう。多分、そこら辺が気に入らなかった奴の差し金ね」


 そう言うと、サンドイッチを齧る。

 尻尾も、耳も嬉しそうに動いている。

 という事は、美味しいと言う事なのだろう。それでは自分も、とサンドイッチを食べようとするが、その時気が付く。


「あれ? という事は、今の俺は結構危険なんじゃないのか?」

「そうよね『赤竜の鱗』って言う後ろ盾も無くなったし、格好の的だと思うわ。まあ、実際、アンタの事を殺そうとしている奴も居たし」


 よく噛んで、呑み込んだノエルが、御明察とその意見を肯定する。ついでに、とんでもないカミングアウトもしてくれる。


「なにそれ。俺の知らない所で、殺害計画とか練られてたとか、全く笑えないんだけど」

「まあ、安心して。そいつら全員、そんな事出来ない様に、痛めつけておいたから。って、別にアンタの為じゃ無いんだからね。勘違いしないでよ」


「いや、そこまで行くと、絶対俺の為だよな?」

「う、うるさい! 余計な事言うな!」

「分かった、分かった」


 取り合えず、サンドウィッチを食べ終える。

 場の空気は和んだが、現状は余り良くない。ノエルの言った事が本当であれば、これからアルトは襲撃者の陰に怯えながら、生きて行かないといけない。

 それこそ、明日死んでしまう、何てのもあり得無くない。


「……今までありがとな。ノエル」

「どうしたのよ、そんな、急に畏まっちゃって」

「いや、最近はあんまり話せてなかったから、てっきり嫌われちゃったのかな、とか思ってたからさ」


「フッ……馬鹿ね。それは、その……まあ、私にも色々とあったしだから、その……」

「早くここから出て行ってくれ。俺は、お前を巻き込みたくはない」


 だからこそ、突き放す事を選んだ。

 ノエルの顔は、唖然としていた。微かに、呆れも混じっている。恐らく、すぐにでもこの部屋を出ていくはずだ。けれど、それで良かった。

 友人を巻き込む位なら、自分一人が死んだ方がマシだった。若干の後悔を抱きつつも、ノエルが出ていくのを待っていたが、


「はぁ? アンタ、本当に何言ってんの? だから、これから逃げ出すに決まってるでしょう」


 アルトの予想は外れてしまう。


「は、はぁ⁉ 何言ってんだよ、ノエル! 普通、そこは出ていく所だろ! そんでもって、もう会えないのね、さようなら、見たいな展開だろ!」

「あんたが一体何を言ってんのか分からないし、って言うかこれっぽちも理解したくないけど、私があんたの事を見捨てる訳無いでしょ!」


「ッツ、どうしてなんだよ。俺と一緒に居たら、またあんな目に遭うかもしれないんだぞ!」

「だから逃げるのよ、帝国に」

「……帝国?」


 アーデルハイド王国を、東に行った先には、オルレア帝国が存在している。効率重視な資本主義。

 そこにも冒険者ギルドが存在し、冒険者も沢山いる。


「あそこは、実力主義。例え『荷物運び』だとしても、実力さえ伴えば、誰も見下したりしないし、迂闊に手も出されない。アンタには持って来いの場所でしょ」


 国外への逃亡。確かに、その手もあったか。


「だけど、どうして、お前はそこまで俺の為に?」


 アルトの質問に、バツが悪そうに頬をかくノエル。何度か悩みに悩んだ末に、か細い声でこう言った。


「(だって、私は例え何が在ろうとも、アンタの味方になるって、誓ったんだもん)」

「へ、何だって?」

「はい、もう言った。もう言ったから、聞いてませんでしたは無し! ほら、さっさと荷物揃えるわよ。私だって、武器とか装備とか揃えたいし。その後睡眠をとって、夜になったら帝国行きの場所に行く。それで良いわよね?」


「分かった。所で、お金は……」

「まあ、貸してあげるけど、当然借金よね。利子は数倍にして返してね」


 キャルン、と言う擬音が似合いそうな笑みを浮かべて、残酷な宣告を告げるノエル。ソレに対して、アルトの顔は真っ青になってしまう。


(まあ、代わりに、別のモノで払ってくれも良いんだけど)

 

 そう呟いたノエルの声は、アルトには聞こえなかった。


「面白そう」「次に期待しよう」「ふーーん、まあ良いんじゃね」と思った方は、ポイントよろしくお願いします。それだけでも、励みになります。

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